『バイオハザード』の悪の組織はオンライン

これと対照的なのが『バイオハザード』の悪の組織の幹部会です。こちらはアンブレラ社というグローバル企業が諸悪の根源なんですけれども、アンブレラ社の幹部会はオンラインなんです。スペクターと同じく、世界各地の悪者が集まって密議を凝らすわけですけれど、外はゾンビがひしめいているので対面ができない。

内田樹『複雑化の教育論』(東洋館出版社)
内田樹『複雑化の教育論』(東洋館出版社)

その点では、いまのコロナ・パンデミックと状況設定は同じです。面白いのは、テレビ会議なので、フェイクの画像が混じる。化け物が人間を偽装して混じっていたりしている。異形のものもオンライン画面上では「ふつうの人間」に見える。そこに『バイオハザード』のサスペンスもあるわけです。

「悪の幹部会」にはスペクター型とアンブレラ型の二つがあるわけですが、スペクター型は「命がけ」です。参加者は生身をその場に差し出すことを義務づけられている。そうすることで緊張した対面状況が作り出される。その緊張感が強固な秘密結社を維持している。一方のアンブレラ型のオンライン会議は「嘘つき放題」なわけですね。さて、この二つの悪の組織はどちらが強靭きょうじんか。これは圧倒的にスペクターなわけです。

対面で会議をやる組織の方が強い

ジェームズ・ボンドはもう何十年もスペクターと戦い続けているわけですけれども、彼が侵入できるのはせいぜい支部どまりで、倒したのも、ドクター・ノオとかゴールドフィンガーとかいう支部長クラスまで。その程度の悪党だといくらでも替えが効くので、ボンド君の活躍にもかかわらず、スペクター本体は相変わらずほとんど無傷です。

一方のアンブレラ社はグローバルな悪の組織の割にはかなり脆弱ぜいじゃくです。実際にアリス(ミラ・ジョヴォヴィッチ)はわりと簡単にアンブレラの中枢部に侵入して、幹部たちをじゃんじゃん殺してしまう。なるほど、やっぱり対面で会議をやる組織の方が堅固なんだな、というのが映画を観ての僕の感想でした。というので、組織を長期的に存立させようと思うのなら、対面型のコミュニケーションが必須であるということがわかりました。まあ、当たり前なんですけれど。

【関連記事】
【第1回】「6年間、ずっと同じでないとダメ」イマドキの中高生を苦しめる"キャラ設定"という呪縛
長年ひきこもりの人を診てきた精神科医が警鐘「リモートワークが快適な人」の"ある危険な兆候"
「どれだけ気をつけてもムダ」中国人スパイがあっさりと国家機密を聞き出すスマートな手口
「ネルソン提督のようですね!」部下の時間を奪うダルい上司を私がそう褒める本当の理由
銀座ママが「LINEを交換しよう」と聞かれたときに必ず使う"スマートな断り文句"