お金で引き留めても、結局、辞めていく理由は……上司の存在

それでも優秀な社員であれば何とかして引き留めたいと考えるもの。昇給や昇進など待遇を提示することで社員を引き留めることを「カウンターオファー」と呼ぶが、実はカウンターオファーはあまり効果がないという調査もある。

ロバート・ウォルターズ・ジャパンが会社員873人に「カウンターオファーに応じる可能性」を聞いたところ「可能性なし」が47%、「可能性あり」が53%という結果だった(2021年12月9日)。半数はどんな条件を提示されても応じないと答えている。

逆に応じる可能性がある人はどんな条件なら応じるのか。最も多かったのは「昇給」で87%、次いで「働き方の柔軟性向上」(43%)、「昇進」(41%)、「リテンション・ボーナス(残留特別手当)」(32%)という順だった。

昇給・昇進など給与やお金に関わることはわかるが、2位に働き方の柔軟性を挙げているのは、自由度の高い働き方を求める人が多いという最近の特徴だ。

しかし、いったんカウンターオファーを受け入れて会社に留まった人がその後、どのくらい会社に在籍するのかという調査では、0~6カ月の人が27%、1年の人が20%。1年で退職する人が47%と半数を占めている。結局、“お金”をエサに釣っても半分が1年以内に辞めてしまうのが現実だ。

ではなぜ「びっくり退職」や「ニコニコ退職」が発生するのか。一般的に退職理由では「会社の将来性への不安」、「上司との相性が悪い」、「給与に対する不満」が最も多いと言われる。

仕事がデキる人の“ワークメンタリティ”が下がってしまうワケ

しかし、リクルートマネジメントソリューションズの調査(2021年12月21日)によると、これは表面的な理由にすぎないことがわかる。

調査では「びっくり退職」について「ワークメンタリティ(従業員が仕事に臨む心理状態の総称)」に着目してその原因を分析している。

上司評価とワークメンタリティとの関係では、上司評価が高評価(期待通り・期待を超えている)かつワークメンタリティ好調者は30.8%だったが、高評価なのにワークメンタリティの不調者が26.2%もいた。

ビジネスマンは指を突き出してそれを証明する
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つまり上司も評価する優秀な社員なのに4人に1人の割合でメンタル不調に陥っている。これについて調査では「上司が気づかないまま、本人の仕事に向かう心理状態が悪化している可能性が高く、予期せぬ退職が懸念される要注意のパターン」と分析している。

しかも優秀なワークメンタリティ不調者は新人に限らない。入社1年目は24.1%、2~3年目は26.5%だが、6~9年目でも27.4%、10~19年目でも26.7%も存在している。

つまり、会社の主要な戦力として期待されている30代の優秀社員の4人に1人以上が退職リスクを抱えていることになる。