頻繁に九州に飛来するミカンコミバエ
ところが、根絶から29年が経過した2015年9月、突如としてミカンコミバエは再び奄美大島に現れた。アジアからの風に乗って到達したと考えられる。
あっと言う間に彼らは島に蔓延し、繁殖してしまった。幼虫であるウジが果実から同時多発的に発生したのだ。
農林水産省は島外への蔓延防止を目的とした移動規制を決定した。人海戦術を展開して全島にテックス板をばらまくとともに、ヘリコプターからも散布し、柑橘類、マンゴーなど果実類全般、トマト、ピーマン等の果菜類全般の島外への持ち出しを禁止した。
農家は涙をのんで多くのミカンやトマトを廃棄処分せざるを得なかった。この時、ミカンコミバエの発生は徳之島と屋久島にまで及んだが、再び徹底的な雄除去法を実施することで翌年1月までにはすべての生息個体を駆逐できた。
近隣諸国から風に乗って飛んでくるミカンコミバエを侵入の初期に発見し、早急に初動防除を行うため、港を中心に日本全土にミカンコミバエの誘引トラップが仕掛けられ、調査が続けられている。実は2012年ごろを境にして、南西諸島ではトラップにかかるミカンコミバエが増え続けていた。そしてここ数年、九州南部でもミカンコミバエが頻繁にトラップされるようになっていたのである。
「温暖化」と「コロナ禍」という新たなリスク
なぜ最近これほど多くミカンコミバエの発生が続くのだろうか。
詳細な原因はこれから十分に検証しなくてはならないが、温暖化により気圧の配置が変わり、風の吹くルートが変化したことが一因と考えられる。また、ミカンコミバエには変異株ともいえる複数の近縁な種類が東南アジアにいる。飛んでくる種類によってテックス板の効果が変わる可能性もある。
飛来源の地域によっては、すこし変異の異なるミカンコミバエが飛んできて誘引剤の威力が弱まることも想定される。もし誘引剤の効き目がないミカンコミバエが飛来して、繁殖を許す事態になれば、ミカンコミバエの駆除に対して、ウリミバエを根絶させた不妊化法に切り替える検討もしなくてはならない。
さらに、コロナ禍に特有の問題として、防除する人間側の問題もあったと考えられる。
ミカンコミバエがトラップにかかると、すぐさまその近辺にトラップを増やし、寄主となる果実の調査も行わなければならない。国、地方自治体、農業関係機関が密に連携をとって人海戦術で徹底した駆除が必要となる。
ところが、地方自治体の現場からは、コロナ禍で人手が他部署にとられてしまい、さらに大人数で連れ立って調査するにも制限がかかり、人海戦術を展開しづらいという声が聞こえてくる。
幸い国と地方自治体の職員の必死の調査と防除の結果、2021年12月14日時点でミバエの発生はほぼ抑え込まれたと思われる。コロナ禍の中、現場で努力された方々には本当に頭が下がる。
おそらくミカンコミバエは今年の九州の厳冬期を乗り越えられないだろう。しかし地球温暖化が現在のペースで進むと、九州以北地域の温室ハウスでミカンコミバエが冬を越える可能性がある。なんとしても九州への定着は回避したいところだ。