侵入生物に「国境」はない

ミカンコミバエの一件が示唆するものは大きい。

地球温暖化によって生息域を拡大した生物や、物流やインバウンドによって諸外国から入り込んできた生物など、新しい土地に侵入した個々の生物の背景にある事情はさまざまだ。

そもそも生物に国境はない。彼らは国境など気にもせず、移動分散して新しい生息地にやってくる。「侵略的外来種だ」と大騒ぎするのは、僕たち人間が国境なるものを勝手につくったためでしかない。

生物の分布は常に変化している。近年では、南方系の生物が寒い地方でよく見つかって話題になる。以前は亜熱帯の南西諸島に分布した、たとえばアカギカメムシなどのきれいな昆虫が、2021年には青森や北海道でも観察され、昆虫好き界隈ではかなり反響があった。

日本周辺の海域では熱帯・亜熱帯性魚類が見られるようになってきた。ペットから野生化したインコが都市部に増えた。中国からコンテナに乗ってやってくるヒアリ、韓国から侵入したツマアカスズメバチ、街路樹や果樹に被害を及ぼすカミキリムシ類などなど数え上げればきりがない。

有刺鉄線の張られた日本国旗
写真=iStock.com/kemalbas
※写真はイメージです

われわれは「外来種ランド」を生きている

侵略的外来生物が日本に来るのは、長い歴史をみればよくあることだ。

1960年代、街で育った僕らが子供だったころ、家の近所はセイタカアワダチソウがそびえたつ空き地で、石をめくってオカダンゴムシを探した。この植物もオカダンゴムシも1900年代の初めに欧米から日本に持ち込まれて定着した帰化生物だ。

ようするに「外来種ランド」の中で僕たちは育っているようなものなのだ。

だが、危険生物が国内に侵入することで、いまを生きている僕たちの日常が奪われることは大きな問題だ。

新型コロナウイルスによって新しい日常を強いられている僕たちは、それを受け入れる不自由さを痛感している。ヒアリ、セアカゴケグモ、ツマアカスズメバチ、エキノコックス、マダニなど、新型コロナだけではなく人命にかかわる危険因子の分布拡大による被害がメディアを賑わすいまどきの日常である。