日本を「ミカンコミバエ発生国」にしないことが大事

ミカンコミバエは被害を及ぼす果実の種類がとても多い。一度、繁殖を許すと、国際的に日本は「ミカンコミバエの発生国」と位置付けられてしまう。

僕たちはアメリカ産のオレンジをスーパーで買うことができる。しかし、ミカンコミバエの発生していない日本にオレンジを輸出するには、出荷前に農薬で燻蒸くんじょう処理をしなくてはならない。

もし日本がミカンコミバエの発生国になると、果実を日本に輸出したい諸外国にとっては好都合だ。燻蒸処理が不要になるからだ。言葉を変えると、わが国を重要な病害虫から守る水際対策をしている植物防疫の仕事は、日本の外交カードになる可能性がある。

外来生物の侵入について書くと、人が持ち込んだのではないか、と言う人が必ずいる。しかし、ミカンコミバエに限っては、主に発生国から風に乗って日本に飛んでくると考えられている。

その根拠は、毎年確認される侵入時期と場所にある。毎年の侵入の傾向をみると、まず6月ごろに風に乗って成虫が日本の南西部に飛び込んでくる。普通は初動防除が機能し、単発の飛び込み、つまりオスが何カ所かで見つかるだけで発生は終息する。しかし、いったん初動防除を誤ると、侵入したメス成虫が卵を産んで繁殖してしまう。

発生がダラダラと続いた昨年は、繁殖した子世代のミカンコミバエが各地に分散し、11月から12月にかけてトラップにかかり続けた可能性が高い。

害虫防除に最も重要な「人のつながり」

かつて僕がミバエ類の防除に携わった沖縄での同僚や後輩からいつも教えられる教訓がある。初動防除の鍵となるのは普段からの人脈づくり、ということだ。

初動防除に強い地方自治体のエキスパートたちは、現場の人々とのつながりを実に大切にして普段より情報を得ているおかげで、ミカンコミバエが1匹でも罠にかかった時には、どの地区に放棄したミカン畑があるとか、ウジ虫を最近見たという情報をいち早く得ることができ、素早い調査と徹底した防除を行える。

普段の努力がいざというときにものを言う。効率化が重視される最近の行政で、このような地道な作業は軽視されてはいないだろうか。そのわずかな油断が、やがて甚大な被害を呼ぶことになる。