「女性の支店長はいらない」にショックを受け辞表

「だから田舎の支店長は嫌なんですよね。田舎と違って、僕たちには商品を1件1件売り歩いている時間なんてないんですよ」

首都圏は市場規模が大きく、チェーン化している。顧客1件あたりの売り上げは、北陸とは比較にならないほど大きい。営業担当者も、大口の顧客を重点的に回ることが多かった。ほかの担当者は、面と向かってそれを中島さんに言わなかったが、この若手社員は正直に本音を吐露したのだった。

ショックだったが、ここでくじけていては前に進めない。中島さんは「自分が女性だから話を聞いてもらえないのかもしれない」と考え、社員の意識を知ろうと、「女性の支店長をどう思うか」というアンケートを実施した。

結果は散々だった。「女性の支店長はいらない」「どちらかと言うといらない」が約8割。無記名なのにわざわざ自分の氏名を書いて提出してきた人もいた。地方の女性所長がいきなり関東支店長になったということで多少の反発は覚悟していたが、これほどとは思っていなかった。

目を覚ましてくれた上司の言葉

「悲しくて、何のために一人でこっちへ来たんだろう、『東京へ行って売り上げを伸ばすぞ』なんて夢見ていた自分が甘かったなと。それで悩んで悩んで、とうとう辞表を書いたんです」

当時の上司は現会長の浅田剛夫氏。経緯を説明して辞表を渡したところ、中も見てもらえずピシャリと叱られた。「女性支店長をどう思うかなんて、お客様が言うことであって、社員の意見を気にする必要はない。そんなアンケートを取る暇があったら営業してこい」──。

心の奥で、「引き止めてくれるのでは、励ましてくれるのでは」と期待していことに気付いた中島さん。「私のそんな甘さを見抜いたからこそ叱ってくれたのだ」と感じ、帰宅後には恥ずかしさのあまり一人涙したという。