ネット世論の監視員を国家資格化
実は中国のネット検閲は重層的な構造となっている。
ニュースメディアや検索サイトのグーグル、ソーシャルメディアのフェイスブックなど、中国共産党にとって不都合な海外サイトとの接続を遮断するGFW(グレート・ファイアー・ウォール)。ウェブサイト開設にあたって中国政府への登録が必要となるICP(インターネット・コンテンツ・プロバイダー)登録。さらに中国IT企業による自主検閲と当局による企業への窓口指導。共産主義青年団などから動員された“ボランティア”によるチェック……。
多くの監視の網があるが、その一つに地方政府の各部局や国有企業によるチェックも含まれる。政府部局や国有企業はネット世論監視のソフトウェアを導入して、自分たちに関連するネット世論の情報収集を続けているが、そのノウハウを学んだことを証明するのが、先に述べた「ネット世論分析師」という資格である。
2013年に国家資格としての認定が始まった。体系的な担当者の養成が行われていることは、ネット世論の監視が国の任務にとどまらず、あらゆる部局が取り組む重要課題であることを示している。なぜ、中国共産党はここまでネット世論の監視に力を入れているのだろうか?
それを理解するためには、2002年から12年の胡錦涛(フージンタオ)体制における、インターネットとメディアの商業化がもたらした世論統制危機という歴史を踏まえる必要がある。
「メディアの民主化」によって相次いで官僚が失脚
中国において、メディアは「党の喉と舌」(中国共産党の代弁者)と呼ばれている。新聞、雑誌、映画、テレビと、あらゆるメディアは党の統制下に置かれてきたが、そうした規制ではなかなか縛れなかったのがインターネットであった。
伝統的なメディアでは新聞社やテレビ局など発信者の数は限られているが、インターネットでは誰でも発信者になりうる。膨大な発信者すべてを監視することなど不可能だ。発信者の数は年々増加している。
インターネットの利用者数が増加していることに加え、ネット掲示板、ブログ、ソーシャルメディアなど、新しいサービスが誕生するたびに、より使いやすく、簡単にメッセージを公開できるようになっていく。この状況は「メディアの民主化」と呼ばれる。
インターネットで発信されるメッセージ、ネット世論は、今や政治と社会を動かす大きな力の一つになった。かくして胡錦涛体制の、とりわけ2000年代後半から2010年代初頭にかけての後期は、中国共産党がネット世論に翻弄された時期となった。
インターネットによって地方政府の問題や不作為が暴かれ、官僚が失脚するといった事件が相次いだ。
代表的な事例には、07年のアモイPX(パラキシレン)事件(携帯電話のチェーンメールを通じて、化学プラント建設反対のデモを実施。計画は撤回となった)、10年の宜黄事件(地方政府による暴力的な土地収用に住民が焼身抗議。
北京市に陳情に向かう住民を地方政府関係者が取り押さえるなどの経緯がインターネットを通じて、リアルタイムで発信された。地元の県政府トップが解任)、11年の温州市高速鉄道事故(高速鉄道の衝突脱線事故。救助活動が終わらぬうちに車両を土に埋めて隠蔽しようとしたなどの問題が追及された)などがあげられる。