ヘヴィ・メタルは精神を解放し、浄化する作用を持つ

問題は幸福という言葉に明確な定義がないことだ。

人間の感情とは複雑なものだ。生活に満足できたからといって、必ず感情が良くなるわけではないし、悪い感情がそれで消えるわけではない。うつ病にならないわけでもない。心の中が良い感情で満たされること(そして、それを表に表すこと)を幸福と呼ぶのだとしたら、おそらくフィンランドは幸福な国とは呼べないだろう。

フランク・マルテラ『世界一しあわせなフィンランド人は、幸福を追い求めない』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
フランク・マルテラ『世界一しあわせなフィンランド人は、幸福を追い求めない』(ハーパーコリンズ・ジャパン)

うつ病がないことを幸福というのなら、フィンランドは世界で最も幸福な国ではない。しかし、生活のための条件が総じて整っていることを幸福と呼ぶのだとしたら、フィンランドをはじめとする北欧諸国は確実に世界で最も幸福な国々ということになる。

そして、フィンランドの人たちの幸福にヘヴィ・メタル音楽が重要な役割を果たしていることは見過ごせない。普段控えめでつつましく、それに誇りを持っているフィンランドの人たちにとって、ヘヴィ・メタルは精神を解放し、浄化する作用を果たしているように見える。

大声で叫ぶことで、抑えつけられていた負の感情を外に出すことができる。カタルシスが得られるということだ。それは本人が自覚する以上に、重要な意味を持っている可能性がある。

ヘヴィ・メタルは感情を表に出すための良い手段

さまざまな感情を経験するのは、精神的な満足のためには良いことだが、負の感情——ヘヴィ・メタルにはそれを表現した曲が多い——を抑えつけるのはまったく良いことではない。また、負の感情がないのは良いことだが、実際にはあるものをないことにしてしまうと、結局は幸福が損なわれてしまう。

負の感情を表に出すことを許容せず、それを抑圧するような文化は健全とは言えないし、人々の感情に必ず悪影響をおよぼす。あらゆる感情をいつもなんらかの方法で表に出せることが重要だ。ヘヴィ・メタル音楽は感情を表に出すための良い手段になっていると言える。

雪に覆われた森の中で叫んでも誰も聴いていないのでは、と思う人がいるかもしれない。しかし、聴いている人がいるかいないかはこの場合どうでもいいことだ。それによって自分自身と自分の抱える感情を知ることができれば、楽しくもないのに無理に笑うよりも心にとってははるかに良い作用をもたらすだろう。

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