在宅勤務に向かない人の申請を却下する方法
いいことずくめのように見える在宅勤務だが、すべての人に適した働き方ではない。誰も見ていない場所で自分を律しながら、会社にいるときと同じかそれ以上のパフォーマンスを出していかねばならないからだ。
中断なく集中できるまとまった時間を確保することが主目的の在宅勤務は、特に思考や想像力を要する業務に携わっている人に向いている。これが、アメリカで専門職や管理職の利用者が多い要因ともなっている。
逆に言えば、自律的に働けない人や周囲の目があったほうが緊張感を持って働けるという人には在宅勤務は向いていない。実際、失敗する原因の多くは通信設備などのハード面ではなく「人」の問題である。テレビやベッド、冷蔵庫など、自宅には誘惑が多い。ついサボってしまう人には不向きだ。
在宅勤務はすべての職種とレベルの社員に向いているわけでもなく、また全員が実践したいと思う働き方でもない。例えば、新人など常にサポートが必要な社員には適用できない。
自律的であることに加えて、在宅勤務者には高いコミュニケーション能力が必要となる。顔を合わせることができない状況下では、コミュニケーション下手な人は在宅勤務によって余計に孤立してしまうだろう。
職場での信頼関係の有無が成功を左右するといってもいい。「不在の間、代わりに電話を受けてあげてもいい」
「見ていなくてもきちんと仕事するだろう」と評価されている人であれば、在宅勤務の成功はほぼ間違いない。
オフィスの上司や同僚にコミュニケーションを取るのは、基本的に在宅勤務者本人の責任。長々とした報告メールなどは不要だが、「今日はどんな仕事に取り組んでどこまで遂行したか」をきちんとアピールする必要はある。
オフィスに不在の自分をフォローしてくれた同僚には感謝の言葉は惜しまないほうがいい。筆者はクライアント企業に研修をする際、「ありがとうはタダよ」と指導している。
そのほか、図書館に資料を取りにいくなど出かける場合はきちんと報告する、在宅勤務日の最初と最後には電話もしくはメールで上司に報告するなど、常識的なコミュニケーションをきちんと続けることも重要である。
なお、在宅勤務には、職場だけでなく家庭の人間関係も大きく関わってくる。配偶者に反対されるケースは少なくない。平日の日中に夫が自宅にいると「ランチまで作らなくちゃいけない」と嫌がる妻もいるのだ。
在宅勤務は社員の権利ではない。仕事のパフォーマンスが下がり、改善が見られないようならただちに通常のオフィス勤務に戻すべきだ。
「あの人は放っておくと何をしているかわかったものじゃない」という人には最初から在宅勤務を許可しないほうがよい。その場合、却下理由を明確に伝える必要がある。「あなたは向いていない」「仕事がいつも遅れる」などの抽象的な表現では納得されない。「○月○日のプロジェクト報告レポートの提出が期限に間に合わなかった。現段階では在宅勤務を許可できない」などと具体的な理由を示すのだ。
また、コミュニケーション能力が低く、自分宛の電話を取ってくれた同僚への感謝の言葉がなかったり、在宅勤務の日程を頻繁に変更して同僚に伝えないような人は、人間関係が険悪になりかねない。この場合も、在宅勤務を中止にすべきである。
在宅勤務者を「希望する理由」ではなく「適性」で選定し、管理することは、労力を要する作業である。しかし、会社と社員の双方がメリットを享受するためには不可欠なプロセスだ。
繰り返すが在宅勤務は育児ママ向けの福利厚生ではない。あくまで仕事に集中するための人事制度である。独身男性でも利用できなければフェアではない。不公平感が出るようになると制度が定着しないだろう。