半年間の不良品率をゼロにした“たった1つの方法”

ある時、社外取締役をお願いしていた酒巻久さんが社長(当時)をしているキヤノン電子の工場を見学に行きました。

埼玉県の秩父にあるのですが、チリ一つ落ちていない清潔な環境で、従業員の皆さんが生き生きと仕事をしています。工場のチーム力もすばらしく、不良品が見つかったときにはすぐに生産ラインをストップし、全員で不良品の原因を探ります。

しかし、この工場にも、過去には決して素晴らしい工場とは言えない時期があったそうです。

その当時、工場で働いていたのは海外から派遣されて来た人たちで、日本語でのコミュニケーションに不慣れな人も多かったようです。キヤノン電子は、一人または少数のチームでほぼ一つの製品をつくる体制(セル生産方式)をとっています。

コミュニケーションが上手くいかない人同士でチームを組むと、「ちょっとおかしいな」と感じてもそのまま次の人に渡してしまうため、不良品を生む温床になっていました。

ところが、ちょっとしたきっかけでコミュニケーションが密になると、問題は段々なくなったそうです。

毎朝、工場の入り口に役員全員が並び、出勤してくる従業員全員に「おはようございます」と声をかけはじめました。徐々に従業員からも明るく挨拶を返してくれるようになり、やがて従業員同士でも、声をかけあって仕事をする雰囲気が生まれたそうです。

それ以降、従業員が「おかしいな」と感じると、誰が指示するわけでもなくラインを止め、自然と従業員たちが集まって原因を調べるようになり、その結果、早い段階で不良品の発生原因を修正できるようになりました。

朝の挨拶というコミュニケーションが不良品の発生を大幅に防ぐという結果につながったのです。半年間ほど不良品率ゼロという偉業も生まれたと聞きました。

2020年11月9日、トロントのダウンタウンにある無印良品
写真=iStock.com/JHVEPhoto
※写真はイメージです

トヨタやホンダは確固とした風土を築き上げている

実行力のある会社にするにはまず何をすべきか。この問いに対する答えは、非常にシンプルで、「企業の風土を変える」という一点につきます。

松井忠三『無印良品の教え』(角川新書)
松井忠三『無印良品の教え』(角川新書)

企業の風土は、無意識に従業員の思考や行動に影響を与えて伝承されていきます。

他社に真似できない風土になったとき、どのような時代でも生き残っていける企業になるのは、間違いないでしょう。強い企業のお手本とされるトヨタやホンダは、確固とした風土を築き上げているから、トラブルに巻き込まれてもすぐに立ち直る底力を持っています。

企業の風土を変えるのは、難しいことではありません。

挨拶をする、社内のゴミを拾うといった、当たり前のことを当たり前にできるようになれば、最強の企業に生まれ変わります。

【関連記事】
「上が言っていることだから」を連発する上司を一発で黙らせる部下の"すごい質問"
40代で一気に「顔の老化」が進む人が毎朝食べているもの
同業界にいた女性の叫び「電通の高橋まつりさんは長時間労働に殺されたんじゃない」
会社が絶対手放さない、優秀人材6タイプ
「すべての新入社員は約3年で店長に」無印良品が若手を厳しい環境に放り込むワケ