笑顔に恵まれた取材だった。生活の喜びがひしひしと伝わってくる。もちろん楽しいことばかりではないだろう。だが、こんな笑顔ができるのなら、都会だけで人生を終えるのは損かもしれない。

「妻が反対」でもOK 所沢での農的生活

一同での集合写真。前列中央が「NPO法人がんばれ農業人」の神山光路代表理事。

看板には「トコトコ 有機の畑」とあった。450坪の畑では、中高年の男女10名ほどが農作業を行っている。冬場だから種まきや苗の定植はないが、ブロッコリーやハクサイの収穫、畑への堆肥入れや霜柱対策の木材チップまきなどを、手際よく共同で作業していた。

この一帯は住宅地に隣接している。埼玉県の西武線小手指駅から車で10分ほどしか離れていない。

「なにも田舎に行かなくても、このあたりで田舎暮らしというか、農的な生活は十分に味わえますから」

代表者の神山光路(61歳)は50代半ばで出版社を早期退職し、以前から憧れていた農的生活を実現させようとした。本当なら母親の実家のある福島県に移住したかったそうだ。

ところが、家族の理解を得るのは難しかった。妻と娘は早期退職にさえ反対だったという。「今でも、家内は農作業に付き合ってくれません」と神山は笑う。

収穫された小カブ。これまでに収穫した品種は40種類以上。

そう、世の中には妻の反対で、念願の田舎暮らしを断念する男性は多い。実は、筆者は9年前に都会を捨てて、栃木県の山の中に移り住んだが、妻の猛反対にあった。「そんなに言うんなら、一人で行ってください」「この結婚は失敗だった」と散々に言われた。私の場合は、息子を味方につけて、どうにか押し切った。

神山は2005年に「がんばれ農業人」というNPO法人を立ち上げ、米作り体験や蕎麦打ち実習、木こり体験などのイベントを主催しながら、農的生活に入り込んだ。この間、自身でも体験農園を借りて、農業を勉強したという。