11年7月9日、沖縄タイムスが「米統治下で原発検討 ナッシュ報告進言」という見出しの記事を報じた。原爆投下で広がる本土と沖縄の反核感情を中和するため、米国統治下の57年、沖縄に民間用原発の導入が検討されていたことが「ナッシュ・リポート」で明らかになったというものだ。「ナッシュ」とは、米国防総省で朝鮮戦争、軍事援助、日米安保、行政協定を主務とし、51年8月54年2月まで国防次官補を務めたフランク・C・ナッシュである。報告書作成を指示したのは当時のアイゼンハワー米大統領だ。

前掲の極秘文書にある「運搬手段」の一つが米軍が沖縄に据えた地対地巡航ミサイル「メースB」。日本に原爆を投下した「爆撃機」は古い運搬手段だが、その後登場した大陸間弾道ミサイル(ICBM)の次が「潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)」。極秘文書にあるように「核爆弾」はすぐに製造できても、日本にはSLBMはおろかICBMさえない。一方、米国にはそれらすべてがあり、日米安保を根拠に日本は米国の「核の傘」に守られてきた。

「メースB」の“射出口”は海のはるか北西の彼方をにらむ。

ところが、米国が仮想敵国として照準を定める中国も、現在すでに原潜を海底に配備している。「核の均衡」は、第一撃への反撃が確実に実行される保証が前提となるため、第一撃で壊滅させられるかもしれないICBMだけでは実は十分ではなかった。国土が壊滅しても攻撃命令を実行できる原潜を相対する国家の双方が備えて、初めてその「均衡」が完成する。完成すれば、両国の核戦争は理論的になくなるため、中国の原潜装備の瞬間に日本を守るはずの「核の傘」は消え失せていたのである。

しかし、独自の核兵器保有には数多の障壁がある。核施設、原発施設でのテロ対策。それに伴う無数の法整備。NPT(核拡散防止条約)脱退と米国との関係。批判が予想される国際世論。そして、再び巨大地震を招き核兵器以上の被曝をもたらす恐れを孕む日本の地殻断層……。

「核と原発」「原発と防衛」「核と防衛」の三つ巴で出口が見えないまま、日本は国民の命に関わる原発問題を解決する糸口を模索しなければならない局面に立っている。

※すべて雑誌掲載当時

(西川修一=撮影)