「自然を活用した気候変動対策」

ヒゲクジラ類の多くの種は、現在はまだ、20世紀に行われた大量殺戮の痛手から回復しきれていない状況だ。もしクジラの個体数が捕鯨以前のレベルに戻れば、海洋生態系の機能は大きく改善されるとピエンソンは語る。

ピエンソンは声明の中で、「私たちの研究結果は、世界の生産性と炭素除去に対するクジラの貢献度は、規模という点で、おそらく全大陸の森林生態系に匹敵していたと示唆している」と述べている。「このシステムは今も存在しており、クジラの回復を助けることで、失われた生態系の機能を取り戻し、自然を活用した気候変動対策を行うことができる」

研究チームは、20世紀が始まった時点で、南極海のクジラは年間約4億3000万トンのオキアミを食べていたと推定している。これは南極海に現存するオキアミの2倍に相当する量だ。

クジラの個体数が回復し、それに伴って植物プランクトンの量が増えれば、2億トン以上の炭素が吸収され、海洋システムに蓄えられると研究結果は示唆している。しかも研究チームによれば、これらの恩恵は年を追うごとに大きくなる可能性があるという。

「クジラは生態系エンジニアだが、私たちが研究を行うまで、現実のデータに基づく数値を比較することができなかった」とピエンソンは本誌に語った。

「捕鯨によって『海のアマゾン』が失われたと言っても過言ではない。これは、(生物多様性ではなく)バイオマスの損失という意味でのことだ。絶滅した種こそいないが、個体数の減少は、生態系の機能に劇的な影響をもたらしたと考えられる」
「巨大なクジラたちの回復を促すことは、世界の海の健康と機能にとって良いことであり、さらに、私たちの子孫にとっても良いことだと思う」

(翻訳:ガリレオ)

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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