なぜ、他社にはできなかったのか
ほかの酒類メーカーが「檸檬堂」をつくれなかったのは、やはり「イノベーションのジレンマ」が原因の一つでしょう。つまり新しいものをつくりだすと、それまでの自分たちのブランドが壊れてしまう。
たとえば缶チューハイ市場で先頭を走っているキリンが、「檸檬堂」のようなコンセプトの商品を売り出せば、最も売れている「氷結」と真っ向から競合することになります。だから「檸檬堂」のような発想はできないし、発想する人がいたとしても、おそらく経営会議で却下されてしまう。
逆に言うと、それ以外のメーカーにチャンスがあったはずですが、「檸檬堂」が出たいまは、ひたすら「檸檬堂」の真似をするにとどまっているのが非常に残念。
日本のメーカーにはびこる真似体質
日本の企業が真似体質なのには歴史的な経緯があります。お酒は今でこそ量販店で買う人がほとんどですが、昭和のころは近所の酒屋さんに家まで配達してもらうことがほとんどでした。酒屋さんに「ビール、ワンケース持ってきて」というと、さっと運んでもらえる。銘柄指定もしない。そうするとその酒屋さんが扱っているビールが自動的に入ってくるのです。
そうなると、例えば「三ツ矢サイダー」が非常に売れていると、三ツ矢サイダーを扱っていない酒屋さんは困って、つきあいのあるお酒メーカーの営業に、「キリンさんには、三ツ矢サイダーみたいなのはないの? お客さんから三ツ矢サイダーくれって言われると困るんだけど」と訴える。そこでキリンは、「じゃあ同じようなものを作りましょう」と言ってキリンレモンが開発される、といった具合です。だからどうしても売れ筋商品と同じような商品を品揃えしなければという体質がDNAの中にあるのかもしれません。これは、販売店がメーカーで系列化されている家電製品などにもいえることです。
業界の中にどっぷりつかっていると、業界の慣習や常識にがんじがらめになっていくもの。しかしそれを乗り超えてこそ、イノベーションが起こせるということを、「檸檬堂」の例は教えてくれています。