時間を止める力は「危険な能力」

先ほども言ったように、光速移動や重力による時間停止の疑似的な再現において、SFと現実の最大の違いは、止まっていると思っているまわりが、実は、相対的にしっかりと能力者やブラックホール近くにいる人を観測しているという点です。つまり、まわりからすると、逆に彼らこそが止まっているように見えているかもしれないということです。

ブラックホールまわりの時間の停止を考えてみてください。ブラックホール付近の人から見ると、遠くの人の動きが止まって見えて、逆に遠くの人からは、ブラックホール付近の人の動きが止まって見えるという相対的な関係にあるということです。

なので、例えばこの止まって見える時間のなかを好き勝手に移動していると、次の瞬間、車に轢かれてしまうということも十分考えられるということです。見かけ上止まっているのと、実際に止まっているのとでは全く違います。まわりを間違って認識する可能性が高いので、事故りやすいといえますね。自分の力を過信しないようにしたいものです。

他にもSF作品では、撃った銃弾が空中で止まっているシーンが出てきますが、これも相対論的に見かけ上「静止して見えているだけ」ならば、大変に危険な行為ですね。実際は、猛スピードで飛んでいるのに、誤認している状態です。

飛んでくる銃弾
写真=iStock.com/Razvan25
※写真はイメージです

仮にフィクションとして、自分以外が完璧に止まっていたとしても、先ほどのなぜ空中に浮いていられるのか問題がもう一度出てきます。また、どこかのSF作品では、銃弾の軌道を変えて、かつ銃弾をトントントンと小突いて、運動量を加え続けて加速するような描写が出てきますが、仮に、静止した状態で運動量が蓄積されるということであれば、実は最初に空中にある弾に触れた時点で、自身の手を銃弾が貫かないとおかしいことになりそうです。すでに相当の運動量を持っているはずですから、手で触ること自体が危険な行為ですね。

他にも「時間を止める=空中で静止している」というのは、イメージしやすいですが、力学的に説明しようと思うと、力の作用そのものを変えないと実現しそうにありません。

例えば、離陸後の飛行機が、時間が静止した世界でも空中に浮いていられるのでしょうか。機体を浮かせている浮力は、羽根を通る空気の速度差によって生じるので、止まっている状態で維持させるためには、別の浮力の機構が必要です。まぁ、細かいこういった指摘をしたらキリがありませんが、こうしたことがこの手の能力を見ていて、私が少し気になるところです。