「なんでもええ。早う理事長呼んでこい」

「ここの管理員なんですが、先ほどから何度もクラクションが鳴ってましたので、こうやってきてみたんです」

「ああ、子どもが鳴らしたんや。それがどうしたんや」

車内を見てみると、たしかに小さな男の子が乗っている。

「ここには住民さんであっても、緊急時と消防活動以外、クルマは停めてはならないことになってるんです」

「停めたらいかんにゃったら停めたらいかんで、ちゃんとカギかけて、入れんようにしとかんかい」

「しかし、バリカーが上がっていて通行止めになっている以上、入ってはいけないということですから、そこはご理解いただかないと……」

「許可得ようにも、管理員室行ったら閉まっとるやんけ」

「管理員室は定時になれば閉まってしまいますので、来客用駐車場に空きがなければどこか他所よそのところに停めていただかないと……」

「やかましい。お前では話にならん。理事長、誰や」

「誰って、ご存じないんですか。ここの住民さんなんでしょう」

「なんでもええ。早う理事長呼んでこい!」

この男、ここの住民さんの息子で、現在は別の市に住んでおり、親の家に一家で遊びに来ているのだった。聞くところによると、その昔は知らぬ者がいないくらいのワルだったという。

そのなごりなのか、男によれば、駐車禁止区域であろうがなんであろうが、来客用駐車場が満車になっており、駐車禁止区域のバリカーが下にさげられる状態になっていれば、停めていいというリクツになるのだった。

ここからあとはご想像におまかせするが、男の大声で小さな男の子は怯えて泣き出し、男の嫁がやってきて男より激しく怒鳴りまくるは、家内は家内で応援にくる、理事長はその間を取りもつはで、たいへんな夜になったのであった。

いずれにせよ、マンションの3大トラブルにこうした逆ギレモンスターはつきもの。将来、管理員として優雅な余生をすごそうなどとお考えの向きには、深甚なる用心と覚悟のほどをお願いしておきたい。

とても感じの良い3世帯家族だったが…

「泉州レジデンス」は分譲マンションである。だからといって、住民のすべてが区分所有者であるというわけではない。そこに居住していないオーナーもいて、そういう人たちを「外部区分所有者」もしくは「不在区分所有者」という。

この人たちが他人に貸すとそれが「賃貸住戸」となる。1階に位置する109号室は、いわゆる角部屋で、他の住戸よりは間取りが広く、平米数もそれなりに大きくなっている。大所帯向きの物件で、ここが賃貸住戸となっていた。

マンション
写真=iStock.com/SetsukoN
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この11年間で5家族が入れ替わったが、なかでも変わっていたのが大浦さん一家だった。老夫婦2人とその娘さん、そしてそのお子さんであろう男女2人の子どもたちという家族構成。引っ越してきて数週間後、大浦さんのご主人から「たくさんもらったから、手伝ってください」と、食べきれないほど大量の生卵をもらった。それ以来、顔を見れば挨拶を交わすようになった。

老夫婦はとても感じのよい人たちだった。