「勉強ってかっこいい」と思わせる

——子供の学力を伸ばすために親ができることは何だと思いますか?

「環境整備」が大事だと思います。昔は、勉強は「やらなくてはならないこと」で、やりたくない子も強制されて仕方なくやっていましたが、今は違います。自分から能動的に学ぶほうが、教育効果が高いことがわかっています。

親ができることは「勉強しなさい」と言うのではなく、子供が自ら「勉強しよう」と思うように仕向けることです。子供にいくら口で言ってもスイッチは入りませんし、むしろ反発したくなるかもしれない。

家庭でできることは、たくさんの刺激を与えることでしょう。“ビジュアル”で見せるということは特に有効です。例えばリビングに図鑑を置いておくとか、恐竜でも乗り物でも歴史でも、好奇心を刺激するようなテレビ番組を意識的に流しておくとか。

口は出さずに環境面から、勉強に関心が向くように仕向けるのです。休日に遊園地に行くのもいいですが、たまには博物館に連れて行ったりすると、興味を持つきっかけになるかもしれません。

三田 紀房(みた・のりふさ)
撮影=堀 隆弘
三田 紀房(みた・のりふさ)大卒後、一般企業勤務を経て漫画家に。代表作に『ドラゴン桜』『ドラゴン桜2』『インベスターZ』『エンゼルバンク』や、連載中の『アルキメデスの大戦』、医学生の成長を描く『Dr.Eggsドクターエッグス』などがある。

——それこそ、『ドラゴン桜』のような漫画を読ませることも一つの方法ですよね。

そうですね(笑)。私が『ドラゴン桜』を執筆するときに心がけたのは、「勉強している姿がかっこいい」と思わせるような描き方をすることです。子供は「かっこいい」ものに憧れるんですよ。勉強している姿をかっこいいと思ってもらえたら、子供はマネをしたくなるというわけです。

16年前に『ドラゴン桜』をドラマ化したとき、地方からの東大受験生がすごく増えたらしいのですが、それはドラマを見た中高生が、「勉強するのって意外とかっこいいじゃん」と憧れを持ったからでしょう。そして、「自分も合格できるかもしれない」と、ビジュアルでイメージをつかむことができた。

「なんで勉強しなきゃいけないの?」という疑問を子供に抱かせないように、勉強するのが当たり前の環境をつくるのが理想ですよね。自分から「いい学校に入りたいな」とか、「勉強したいな」と思わせられるといいですね。

——親からすると、「言いすぎてもよくない」と思いつつも、「子供のためにも言わなきゃいけない」というジレンマがあると思います。

ドラゴン桜「一発逆転」プロジェクト&東大カルペ・ディエム『ドラゴン桜「一発逆転」の育て方』(プレジデント社)
ドラゴン桜「一発逆転」プロジェクト&東大カルペ・ディエム『ドラゴン桜「一発逆転」の育て方』(プレジデント社)

高校野球の強豪校の監督さんとお話ししたときに聞いたのですが、練習したらもっとうまくなるのにしない子ってたくさんいるそうです。その子たちに「もっと練習しろ」って言ったってやらない。じゃあどうしているかというと、「あの子は、毎日自主練しているらしいよ」とほかの子の様子を伝えるのが一番効くそうです。これもある意味、自分から行動するように「仕向ける」ことですよね。

子供に勉強してほしいなら、理屈を説明するのではなく、まず親自身が勉強してみせるというのも一つの手かもしれません。

勉強でもスポーツでも、やらない子供に大人がヤキモキするのは、古今東西みんなが抱えてきた悩みです。子供が自分の可能性に気づくように仕向け、待つ。それが大人の役割なのでしょう。