特に中年のゴミだめは見つかりにくくなっている
場数をこなしているはずの当日の社員チーフも、時折外に飛び出し、しゃがみこんで口元をおさえていた。臭いにやられているのか暑さに参っているのか、わからない。
私も連続した作業は10分が限界だった。まるでウルトラマンのように、脳に危険信号が点滅し、目がチカチカして頭が痛くなってくるのだ。いつもはどんなに臭くても汚くても笑いの絶えない現場だが、ここでは誰もが他人を気遣うことができないほどノックアウト寸前だった。家主の男性も熱中症で死亡したのかもしれない(原因は不明)。
男性は競馬で小遣いを稼ぎ、数年前まで仕事をしていたらしい形跡があった。家賃も滞りなく支払えている。
しかし死体発覚状況を考えても、現在は社会とのつながりがない。現場を見た石見さんが推測する。
「このゴミをためるのに20年はかかっています。失業や離婚、転職など何かのきっかけがあり独居生活とともに、失望感みたいなものがあって、どうでもいいやと思ってしまったんでしょうね。そしてご近所さんとのつながりも薄れていった。西洋的概念で“個”が大事にされる現代では、特に中年のゴミだめは見つかりにくくなっている」
年収1000万円超、家賃20万円近くの賃貸マンションに一人暮らし
この10月下旬も、やはり60歳男性がゴミ部屋の中で死亡した。誰もが名前を知る超大手企業に勤めていたその男性の年収は1000万円を超えていたという。家賃20万円近くの賃貸マンションに一人暮らしで、ゴミ山から転落して頭を打って亡くなったとのこと。
男性の親族からあんしんネットへ室内整理の依頼があった。同社にとってもトップクラスのゴミの量だというから、ぜひとも私も見たいとお願いした。しかし片付け一日目では、玄関口から室内に入ることさえ不可能と聞き、2日目の作業に参加させてもらうことにする。
すると、なんと今回はプレジデントオンライン編集長の星野貴彦さんも「一緒に掃除をしたい」と言う。これまで多くの人にゴミ屋敷の話をし、大半の人が興味を示してくれたが、「自分もやります」と申し出てくれたのは彼が初めてである。
とても意外だった。