長男一家なら一族の墓に入れるが、次男以下はイエを出て新しい墓(家)をつくる。こうした「イエ制度」の慣習に人々は今も縛られている。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳さんは「とりわけこの制度の弊害を受けているのが“おひとりさま”。親族間での合意ができていれば単身女性でも墓所継承は可能だが、実際にはそうはなっていない。背景には、江戸時代から継承されてきた檀家制度、血統を守ろうとする潜在的意識、ムラ社会の慣習、女性への差別的な見方などがある」と指摘する――。
無数の墓が並ぶ京都・東山の東大谷墓地
撮影=鵜飼秀徳
無数の墓が並ぶ京都・東山の東大谷墓地

おひとりさま「死後、私たちの安住の地はどこにあるのですか」

単身女性、いわゆる「おひとりさま」の墓問題が深刻である。

日本には単身女性が代々続く墓を継承しづらい慣習が残っている。近年、個人向けの永代供養や海洋散骨といったサービスが登場した。おひとりさまに便利な葬送のかたちだが、生前にあれこれ準備しておく必要があったり、コスト面での不安が生じたりすることもある。「死後、私たちの安住の地をどこに求めればいいの」。死後の環境が整っていないため、こうした悩みを抱えるおひとりさまは少なくない。

厚生労働省は2021年6月、「2020年の婚姻件数が52万5490組で戦後最少を記録した」と発表した。同省は、新型コロナウイルスの影響で結婚を先延ばしした可能性を指摘している。

生涯未婚率(50歳まで一度も結婚したことのない人の割合)は男性が23.4%、女性が14.1%(2015年国勢調査)と、こちらも右肩上がりに増加している。2035年には生涯未婚率は男性が30%、女性が20%に迫る勢いだ。

生涯未婚率は男性のほうが女性より10ポイントほど多いが、墓問題は女性がより深刻である。なぜなら、単身女性が墓の継承者になるケースがあまり見られないからだ。

私の寺では檀家が100軒(家)ほどある。単身女性の墓所継承を阻むような規定は設けてはいない。だが、おひとりさま女性が墓所の継承者になっているケースは1つもない。親族間での合意ができていれば単身女性が墓所を継承することは可能だが、実際にはそうはなっていないのだ。

それはどうしてか。わが国で多くの人の死後は、「イエ制度」に縛られてきた。長男一家であれば一族の墓に入れる。次男以下はイエを出て、新しい墓(家)をつくる。これは俗に「墓制度」とも呼ぶ。