金正恩氏はほくそ笑んでいたのではないか
北朝鮮が日本海に向けてミサイルを発射した。防衛省によると、発射は10月19日午前10時15分ごろだった。
この日はちょうど衆院総選挙の公示日。岸田文雄首相は福島市内で第一声の遊説に臨んでいたが、緊急対応の指示を出すとともに仙台市での演説の後、日程を切り上げてすぐに帰京した。午後3時過ぎには首相官邸に入り、国家安全保障会議(NSC)の4大臣会合に出席した。
首相官邸では、松野博一官房長官も地元の千葉県で選挙運動のさなかだった。代わりに留守番役の磯崎仁彦官房副長官が午前11時40分過ぎから記者会見し、「ただちに首相、官房長官に報告した。指示を受け、対応に遺漏はない」と説明した。
野党は危機管理意識の薄さを指摘した。たとえば、立憲民主党の枝野幸男代表は19日午後の東京都内の演説で「危機管理を担うべき2人が東京にいなかったのは問題だ」と批判した。
野党の批判はいつものことだが、岸田首相をはじめとする政権幹部がドタバタしたことは間違いない。そこがあえて公示日にミサイルを飛ばした北朝鮮の狙いのひとつなのである。岸田首相の慌てぶりを知って北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記はほくそ笑んでいたことだろう。
「多くの進化した制御・誘導技術が導入された」
防衛省の発表によれば、北朝鮮は2発の弾道ミサイルを北朝鮮東部の咸鏡南道(ハムギョンナムド)新浦(シンポ)付近から東に向けて発射し、日本海に落下させた。1発は「潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)」の可能性がある。しかも変則軌道で飛んでいた。
SLBMの可能性が指摘されるミサイルは最高高度が50キロ、飛行距離は600キロだった。日本の排他的経済水域(EEZ)外に落下したとみられる。新浦には北朝鮮の潜水艦基地があり、5年前の2016年に初めてSLBMが発射されている。
一方、朝鮮中央通信は20日、北朝鮮が19日に新型の弾道ミサイルを発射したと伝えた。問題のSLBMである。朝鮮中央通信によると、5年前のSLBM発射の際の潜水艦「8・24英雄艦」が使われた。北朝鮮側は新型のSLBMには「側面機動と滑空跳躍機動をはじめ多くの進化した制御・誘導技術が導入された」と自負している。
実際、韓国の軍事専門家は、変則的な軌道で飛行して迎撃が難しいロシアのイスカンデル型の短距離弾道ミサイルを水中発射用に改良したものと分析している。10月11日から 北朝鮮の首都、平壌(ピョンヤン)で開かれた国防発展展覧会にこのイスカンデル型に似た小型のSLBMが展示されていたことが分かっている。
SLBMとそれを搭載する潜水艦は、アメリカの攻撃をかいくぐった後、核による報復攻撃を行うための要の兵器となる。朝鮮半島の南に回り込んで韓国を攻撃すれば、北向きに設定されたレーダーをたやすく破壊することも可能だ。