そして、これもまた運命だったのでしょう。就任直後から中国関連会社の不正経理や、建築基準法違反問題などの不祥事が立て続けに発覚しました。それでも私は(発覚したのが)「自分が社長になったときで良かった」と思いました。自分はどんな苦境にも、前を向ける人間です。私がこの会社にできる貢献は、皆の気持ちを前に向かせて前進することではないか。だから私は事あるごとに「大丈夫だ。俺がいるから心配するな!」と言っていました。正直、内心はしんどかったですよ。

そんなとき、私は自分の思いとは別に、周囲から自分がどう見えているか、何を期待されているのかを考えます。私は人生という舞台で運命が求めている「私」という役割を、必死に演じているだけなのかもしれません。(芳井氏)

私の哲学 高橋信太郎の場合

「面白い人にたくさん出会えるんじゃないか」というある意味不純な動機で哲学科の倫理宗教学を専攻しました。期待通り、個性豊かな先輩たちからも刺激を受けましたが、一番強く影響を受けたのは植島啓司先生(宗教人類学者。現・京都造形芸術大学教授)かもしれません。植島先生から学んだのは、「きっと世の中には不思議なことがある」ということ。当時、植島先生はバリ島をベースにしたフィールドワークを行っていて、ケチャ(男声合唱を行う民族舞踊)をみんなで見に行ったり、子宮をモチーフにした塩度の高い水の入ったカプセルに浮いて瞑想を研究したりしていて、それらがとにかく面白そうだなと思って師事したんです。

USEN-NEXT HOLDINGS CMO 高橋信太郎氏
撮影=宇佐美雅浩
USEN-NEXT HOLDINGS CMO 高橋信太郎氏

それ以来、自分の実力だけじゃない不思議なことが世の中には存在していて、それをどのように自分の味方にできるのか。セレンディピティをコントロールしたいということを考えます。偶然を味方にするためのひとつの答えが「人の話を丁寧に聞いて解決策を考える」ということでした。これまでの仕事人生を振り返ってみると、そう接した人から5年後10年後にチャンスをもらうことが多かったのです。今までのキャリアチェンジもその1つでした。

Your Growth is Our Growth

20代のころに友人と一緒にバーをやっていた経験も、人に丁寧に繋がっていこうという考えのベースになっているのかもしれません。バーはビジネスの繋がりを求めるお客さんも多かったので話を聞いて仲介役のような役割をしたこともありました。人の話をしっかり聞くことで面白いことが見つかる。それが自分や他人のチャンスに結びつく。「Your Growth is Our Growth」という言葉も、そういった経験から、自分たちが成長するためには関わる方々の成長をまず支援していくことが必要だと感じ、考えた言葉です。メンバーや顧客の成長が会社の成長に繋がるのなら、人に丁寧に相対していくことは間違いではないはずです。