保守的で成り行きまかせの長老たち

実際、一般的に年長男性が安定志向、現状維持に傾きやすいのは日常生活で感じられるだけでなく、学術的にも多くの研究がそれを示している。

リーダーシップに詳しい米コロンビア大学の心理学者シャモロ=プレムジック(Tomas Chamorro-Premuzic)教授は、多くの臨床結果を踏まえて、個人差はあるとしても年齢を経るごとに知的好奇心が衰えやすく、それは新しい出来事や異なる者への寛容度を低くすると指摘する。要するに年長者ほど保守化しやすいというのだ。

心理学だけではない。筆者が専門にする地域の一つであるアフリカでは、開発経済学の観点から農村における年代別の家長の決定について実地調査が数多く行われてきたが、その報告の多くは若い世代の家長ほど新しい農業技術や作物の導入に熱心であることを明らかにしている。

だとすると、年長男性に偏った意志決定は、それまでの経緯を踏まえた一貫性や連続性を高めるとしても、大胆なチャレンジを難しくしやすいといえる。この観点から日本政治をみれば、新しい時代を自分たちで切り拓こうとするより、時代の変化に渋々ついていく「成り行き」や「なし崩し」が基本になることは不思議でない。

デジタル庁創設は菅政権の「英断」とはいえない

近年の日本を振り返っただけでも、成り行きに左右される決定は数多く見出せる。

例えば、菅政権に関しては、ワクチン接種の遅れなどコロナ対策で批判の集中砲火を浴び、わずか一年で退陣を余儀なくされたが、その後になって「実は公約の多くを実現させた有能な首相だった」「コロナで押し流されたが、大きな決断をいくつもした」といった評価もよく聞く。こうした論者の多くは、とりわけデジタル庁の創設を菅政権の功績としてよく取り上げる。

しかし、デジタル庁の創設を「菅氏のリーダーシップ」といった文脈でのみ語るのは、国外にほとんど目を向けていない、視野の狭い議論といえる。

世界で最も長い歴史を持つビジネススクールであるESCPビジネススクールは、デジタル産業のスタートアップの簡便さや現役世代のデジタルスキルなどに基づき「デジタル勝者ランキング」を毎年発表しているが、その2021年度版で日本は主要先進国(G7)中、最下位の7位と評価された。さらに、G7に中国などの新興国を加えたG20では18位にとどまった。つまり、デジタル化で日本はかなり出遅れている。

G7国旗
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これを踏まえれば、デジタル庁の創設は、これまでほとんど放置してきた結果、いかんともし難いビハインドを突きつけられ、ようやく手をつけた所産といえる。それは何もしなかったよりはいいだろうが、少なくとも「英断」や「リーダーシップ」といった文言で飾って済ませられるものではない。