困るのは、一度貼ったレッテルはなかなか剝がせないことで、それは時に差別にもつながります。森喜朗元首相が「女性は話が長い」と言ったのもレッテル貼りの一つの例で、あれを見ただけでもレッテル貼りがいかにバカバカしいかが、わかるのではないでしょうか。

ささいなことでも「バカにされている」と決めつける

【読心】

「読心」とは相手の心を決めつけてしまうことを言います。

和田秀樹『適応障害の真実』(宝島社新書)
和田秀樹『適応障害の真実』(宝島社新書)

ささいなことを根拠と考えて、「あいつは内心で私のことをバカにしている」などと勝手に思い込んでしまうのです。とくにうつ状態の時は、「相手が自分に対してネガティブな感情を持っている」と思い込みがちで、そのため対人関係もうまくいかなくなってしまいます。

しかし本来、人の心というのは精神科医であっても見通せるものではありません。適応障害やうつ病に悩む患者に対しても、カウンセリングを行うたびに「こういう考えだろうか」「この人の本音はこうではないだろうか」と仮説と検証を繰り返し、ようやく「もしかするとこの人の悩みの原因はここにあるのかもしれない」というものが、おぼろげに見えてくる程度です。

それほど人の気持ちを読むのは難しいもので、根拠のない決めつけが事実を言い当てることなど、まずあり得ないと考えていいのです。

そのときの感情で現実を認識する危うさ

【情緒的理由付け】

「情緒的理由付け」とはその時の自分の感情に基づいて現実を判断してしまうことを言います。気持ちが落ち込んでいる時は「何をやってもうまくいかない」と悲観的な判断をし、気持ちが高揚している時には、「何でもうまくいく」と楽観的な見方をします。

バブル末期の日本において、ほとんどの経営者は「株価はまだまだ伸びる!」「地価は下がることはない」と楽観的な判断を下し、そのせいでバブル崩壊時により大きなダメージを負いました。これは感情が大きく現実の見方をゆがめた例です。

例示したような適応障害やうつ病になりやすい思考パターンの人に対して、精神科医やカウンセラーが「そんな考え方をしていたら落ち込むでしょう」「そんな考え方をしていたらさすがに仕事へ行くのが嫌になるよね」などと指摘して、少しずつ考え方を変えていくというのが認知療法の基本的な考え方です。

適応障害の自覚がない人でも、まずは「自分は適応障害になりやすい思考パターンに当てはまっていないか」「こういう完璧主義は危ないのか」「二分割思考はやめたほうがいいのか」と、自身を見直してみるとよいでしょう。

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