「答えがない」から始まる数学的思考法
アローの不可能性定理もまた、答えがないことがわかって終わりではなく、それ以降も研究者たちの指標となってきました。
一般的に、社会的選択理論に対して多くの批判があるにもかかわらず、この理論は社会福祉の領域など多様な分野に適用されてきました。
重要なことは、この理論が倫理的なシステムにまったく依存しない点です。
つまり、民主的な観点からも、理性的な観点からも、すべての人が受け入れ可能な原則から始まっているのです。
数学的な思考が社会にどう役立つのかという問いに答えるとき、数という概念に引きずられると、非常に限定的な見方にとらわれてしまいます。
私の考える健全な科学的視点とは「近似(approximation)」していく過程である、これを前提とすることです。
完璧にできないからと諦めるのではなく、限定された条件の下でも理解できる現象があることを受け入れ、後からひっくり返されても、現在の条件の中で可能なかぎり考えることが大切です。
近似していく道のり、つねに変わりうる可能性、そして繊細に論理を組み上げる過程。それこそが学問だと言ってもいいでしょう。