1位だけを決める選挙方式に潜む“違和感”の正体
ある学校で学生会長を選ぶとします。候補は、A、B、C、D、Eの5人(図表1)。
選挙権を持った学生は全部で55人です。投票の結果は図表2のようになりました。
私たちが見慣れている投票結果とはちょっと違いますよね。これは「選好度調査」というもので、社会的決定理論(social determinism)でよく使われるモデルです。
投票用紙に順位が書かれており、各有権者の候補に対する選好度にしたがって1位から5位まで順位を決めるというものです。
この表はA、D、E、C、Bの順で選好度をつけた票が18票、B、E、D、C、Aの順につけた票が12票あったことを意味しています。
現実的にありそうな投票結果よりもかなり単純なデータですが、複雑に見えますよね?
それは問題がより複雑になりそうだということを暗示してもいます。
もし、これが大統領選挙だったら、この選好度の表から見て誰が当選しますか?
一般に私たちになじみのある投票は、1位だけを決めるやり方です。
商品を選ぶときはもちろん、大統領や国会議員の選挙においても、各人の選好度はあるでしょうが、投票ではいつも1人だけ選ぶようになっています。
たとえば大統領選挙であれば、Aが勝つでしょう。
ところで、この表を見てAが勝者にふさわしいと思いますか?
表には6通りの場合の数が出ていますが、はたして誰が選ばれるべきでしょうか?
多数決で1位でも、選挙方式が変わると最下位に
決選投票をしたとしてもAとDの対決になるでしょうが、他の票を見るとAが選好度の最下位に5回も入っています。
選好度だけで判断するなら、Aは除外されるべきでしょう。
そうして見ると、Bも選好度が低く、平均的にはEの人気がいちばん高そうです。
いまの答えの中にも、さまざまな可能性があります。
いちばん簡単に思いつく方法は、単純多数代表制です。単純多数代表制とは、ただ票を最も多く獲得した、すなわち残りの情報は省略して1位に関する情報だけを反映するものです。
最も簡単ではありますが、すでに1位以外の情報を見た後だと、多数決方式にも問題があるように思えますよね?
多数決方式は便利ですが、昔からその問題点が指摘されています。
アメリカのように多くの州で勝利した人を選ぶ方法もあるでしょうし、選好度に点数をつけて、その合計点で選ぶ方法もありそうです。
たとえば、1位に最も多くの点数を与え、2位以下にはそれより小さい点数を与えていくというように選好度に点数をつける方法です。
18世紀、フランスの数学者で物理学者、政治学者でもあったジャン=シャルル・ド・ボルダ(Jean Charles deBorda)が初めて考案しました。
彼が考案したボルダ方式(BordaCount Method)は、n人の候補がいると仮定したとき、1位をとった人にn-1点を与え、2位にはn-2点を与え、それ以下も同様の方式で計算するやり方です。
ボルダ方式を使うと誰が勝つのか、もう一度見てみましょう。
この状況では1位は4点、2位は3点、3位は2点、4位は1点が与えられます。
Aの最初の列の点数を計算すると72点ですが、残りの列はすべて0点ですね。なので、Aの得点合計は72点となります。では、すべての結果を見てみましょう。
B 48+42+11=101点
C 40+33+34=107点
D 36+54+36+10=136点
E 24+36+74=134点
直感的に選好度の平均がいちばん高いと思ったEが、Dより低いという結果が出ましたね。でも、DとEの点差はごくわずかなので、ここでDかEかを決めるのは難しそうです。
さらに驚きなのは、多数決では1位だったAが、ここでは最下位になったことです。そこでこう質問することも可能でしょう。これは適切な方法なのでしょうか?