観光客が「町の器」を超えない
今、この町には約80軒の空き家があります。私たちは、この空き家をできるだけ活用して宿泊施設や学校の教育施設として再生させたい。そしてお客さまは、こうした施設で過ごして町の人たちとも関わりを持ってもらいたいと考えています。ですから生活観光は「関わり観光」と言ってもいいかもしれません。
これは、いわゆる観光地としての見どころや名物がなくても、どこの地方でもできることではないでしょうか。
そのときに重要なのが「キャパシティー」の問題です。私たちは世界遺産登録直後に、町に訪れる人の数が、町の器以上になってはいけないということをいやというほど思い知らされました。年間通して、標準的にお客さまに来ていただくしくみをつくる。これが生活観光のポイントです。
世界遺産に登録された年に、ここを訪れた人は約70万人。これは異常です。そこから考えると、年間通して30万人ぐらいがちょうどいいのではないかと町民同士で話しています。季節によって変化があったとしても、その波をレストランもお菓子屋さんも理解し、みんなが持続できるしくみをつくっていけるのが望ましいですね。
行政や企業と連携した町づくり
私たちの会社でも生活観光をおし進めるために、「石見銀山生活観光研究所」という子会社を立ち上げ、石見銀山生活文化研究所から、不動産や宿泊施設などの観光事業を引き継ぎ、行政や企業と連携しながら新しい町づくり事業を始めました。
民間が本来、行政の担うべき仕事にまで踏み込んでともに創る。つまり官と民が「共創」して新しい集合体をつくる時代に入るでしょう。
そのときに大切なことは、目先の利益ではなく、感謝や利他の精神。こういった人間本来の心のあり方が求められるのではないでしょうか。この町の歴史教育資源を生かし、教育的環境、施設、人財を活用し、経済至上主義から人間性向上主義、と取り組んでいきたいと思います。