※本稿は、『ゲンロン12』(ゲンロン)の掲載論文「無料ではなく自由を 反緊縮加速主義とはなにか」の一部を再編集したものです。
ITの発達が既存産業の雇用破壊を生んでいる
マイクロソフトやGAFAのような商業主義的な企業が情報産業で支配的になったことで、ITは雇用問題を引き起こさなかったかと言うとそうではない。
確かに、無料のソフトウェアが、有料のソフトウェアを駆逐し、プログラマが軒並み失業するといった事態には至らなかった。
けれどもその代わりに起っているのは、ITによる既存産業に対する雇用破壊だ。特にアメリカで、中間所得層が主に従事する事務労働の雇用量が、ITによって急速に減らされている。具体的には、コールセンターや旅行代理店のスタッフ、経理係などだ。
代わって増えているのが、低所得者が主に従事する肉体労働と、高所得者が主に従事する頭脳労働である。
図表1において、0%の水平線よりも上にグラフが伸びているのは雇用の増大を示しており、下にグラフが伸びているのは雇用の減少を示している。すなわち、低所得と高所得の職業では雇用が増大しているのに対し、中所得の職業では雇用が減っているのである。経済学では、このような現象は、労働市場の「両極化」(polarization)と呼ばれている。
中間所得層が二極に分解し格差が拡大している
日本ではどうかと言うと、アメリカほどではないにせよ、やはり、図表2のように両極化が起きている。それゆえに、男性については図表3の左側のような所得分布の変化が現れている。
これまで所得分布は、一つの山を成しているように考えられてきた。ところが、近年の日本では山が二つになっており、間の谷が深くなっている。要するに、中間所得層が二極に分解し、格差が拡大しているのである。低所得層と高所得層はいずれも割合が増えているが、低所得層の方がより増大している。これは端的に貧しい人が増えていることを意味する。
なお、女性についてはそもそも所得分布の形状がおかしい。低所得層が最大のボリュームゾーンになっている。