アベノミクスと所得倍増政策の決定的な違い

アベノミクスでは「インフレ目標を経済成長率2%」と掲げましたが、池田の焼き直しです。

金利が低いこと。その金利が将来にわたって上がらないこと。融資が活発に行われるためには、この二つが大前提です。

池田の時代には、企業が融資を受けて設備投資できるしくみが整っていました。そのため安心して企業が借金して投資する。積極的に投資するので商品の質が向上する。商品の質が向上すると消費者が買う。すると企業が儲かるので、余裕が生まれ、従業員の給料に反映される。給料が上がれば、生活に余裕が生まれます。

アベノミクスと池田勇人の所得倍増政策の大きな違いは貯金を重視しているかどうかです。アベノミクスでは、貯まりに貯まった貯金を使わせることが主眼でしたから、そこは状況が違いました。

今月、今年の給料がよくてもすぐに消費には結びつきません。

蓄えがあるから安心してモノが買える。貯蓄がなければ人生設計もできません。貯金残高がほとんどない状態で子どもなどつくれない。

文明社会では、ただ食べさせればいいというものではありません。教育にお金がかかります。高等教育を受けさせてやりたい。塾に通わせたり、音楽やスポーツなどの習い事をさせてやりたい。これらは決して贅沢なことではなく、現代日本の普通の庶民が望むことです。

貯蓄が増えていけば、安心してモノを買い、消費が増える。好循環です。

経済成長することによって、その規模が雪だるま式に増えていく。

理論上、毎年7.2%の経済成長をすると10年で2倍になります。しかし、池田は9%を打ち出した。ちなみに下村案は11%でした。実際には図表1のように年によって差がありますが、1960~65年の平均値は10%です。そのため所得倍増には10年かかりませんでした。

実質経済成長率の推移の図表
出所=経済産業庁「国税2000年の日本」より、出典=『嘘だらけの池田勇人

1960年代の成長率は著しく、69年にはGNP(国民総生産)がヨーロッパ諸国を抜いて世界第2位となります。なお、最近ではGDP(国内総生産)が用いられ、使われなくなりましたが、かつて国の経済規模を表す単位は主にGNPでした。

アベノミクスは池田の政策の焼き直しです。しかし不完全燃焼を起こして当初ねらったはずの成果は上げられませんでした。

最大の違いは、池田勇人は最大の抵抗勢力である日銀を初動で叩きのめしましたが、安倍晋三はアベノミクス開始1年で財務省に消費増税を押し付けられました。どんな立派な経済理論も、実行する総理大臣の実力次第なのです。