先の見えない不安が社会を壊していく

将来の不安を抱える人が増えてしまうと、社会は不安定になっていきます。

「先の見えない不安は社会を壊す」――フランスで起きた大規模デモ「黄色いベスト運動」を目の当たりにしたときに感じたことです。

それまでも、しょっちゅうデモは目にしていました。フランス人が自らの考えをデモに参加して示すのは、ごく当たり前のことだからです。

しかし、黄色いベスト運動は、単に右派対左派といった思想的なぶつかり合いではなく、まさに庶民による階級闘争そのものでした。

最初は、マクロン大統領が指揮した自動車燃料増税の影響をもろに受けるドライバーたちが、安全確保用の黄色いベストを着用して抗議していたに過ぎませんでした。それが、あっという間に30万人規模のデモへと拡大したのです。

国会議事堂周辺での抗議活動を行うジレ・ジョーヌ
写真=iStock.com/Sean Comiskey
※写真はイメージです

参加者の多くは、世帯月収25万円前後の労働者や年金生活者だと言われています。

彼らは、今は貧困層には属していなくても、いつ生活が厳しくなるかわからない明日への不安に押しつぶされそうになっており、その叫びは悲愴なものでした。

また、ごく一部ではあるものの建造物破壊などの暴力行為に及んだ参加者がいたため、デモへの非難の声が集まり、市民の間に分断を生みました。「自分たちの生活が今後どうなるかわからない」という不安がフランス社会を壊していってしまったのです。

“縮小”する日本社会

これは日本にとっても対岸の火事ではありません。世帯月収25万円前後という貧困層予備軍は日本にもたくさんいるし、これからますます増えていくからです。

それは、人口に着目すれば明らかです。人口減少は貧困層の増加と直結します。

今後の日本は否応なく縮小していきます。

ピークであった2008年の1億2808万人をターニングポイントに、日本の人口は減り始め、2053年には1億人を割ると予測されます。

それどころか、2060年には9284万人と、ピーク時から28%も減ってしまいます。つまり、40年後には日本の人口は4分の3以下となるわけです。

かつて僕は、現代の「知の巨人」とも称される、フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏にインタビューしたことがあるのですが、そのとき彼はこう言い切りました。

「先進国が発展した要因の多くは人口増加によるもので、人口が減ることは社会にとっていいことではない」

要するに、人口減少が急激に進んでいく日本は今後いい方向には行かないのだということです。

僕たちは上の世代よりも幸福に生きられる人の数が減っていきます。これはたとえるなら、勝者が極端に少ない椅子取りゲームに参加させられているようなものです。