豚のマスクをリアルに作りたい

神奈川県で高校まで過ごした森さんは、「なんとなく海と生き物が好き」という理由で福井県立大学の生物資源学部に進学した。しかし、授業の内容は想定外だった。

「福井県立大学は福井県に貢献することが重要視されていて、福井県の海洋生物資源といえばさばのへしことか蒲鉾かまぼことか食品加工なんですよ。もう、まったく興味が持てなくて。なにも調べずに受験しちゃったからな」

学業に身が入らない森さんは、ゲームや漫画好きが集っていた文芸部で、ラバーマスク作りに打ち込んだ。ラバーマスクとは、映画やアニメのキャラクターを模したり、ユニークな表情をしたゴム製の被り物である。

手作りのマスクをかぶる森さん
写真提供=路上博物館
手作りのマスクをかぶる森さん

子どもの頃からコスプレが趣味の森さんにとって最大の課題になっていたのが「顔」。いくらメイクをしても顔を変化させるには限界がある。しかしある時、「マスクを被れば没入感がある」と気づいてから、ラバーマスクを自作するようになった。

その頃はホラー小説やホラー映画にはまっていたそうで、人気映画『SAW』に登場する殺人鬼がかぶっていた豚のマスクを作っていた時のこと。「もっとリアルに作りたい。もっと豚のことを知りたい」と思った森さんは、突拍子もない行動に出た。福井大学の医学部に通っていた知り合いに、「解剖に潜り込ませてほしい」と頼んだのだ。

標本作りにひかれたきっかけ

もちろんその願いは叶わなかったが、そこから動物の解剖に興味が湧き、いろいろと調べていた大学4年生の時に、友人が『小さな骨の動物園』という本をプレゼントしてくれた。

コスプレをする森さん
写真提供=路上博物館
コスプレをする森さん

その本には、ドイツにある「標本作成専門学校」に通い、日本で唯一の標本士になった相川稔さんがコラムを寄せていた。「こんな人がいるのか!」と驚嘆した森さんはすぐに相川さんの連絡先を突き止め、当時、ドイツの博物館で働いていた相川さんにメールを送った。

しばらくすると、返事が来た。相川さんは、自身が卒業したボーフム市立高等職業専門学校について、高校の授業をしながら標本作りも学ぶ場所と説明したうえで、こうアドバイスをくれた。

「大学を卒業した君が入るのは、つまらないかもしれない。高校卒業後に受験できる専門学校が2年に一度、学生を受け入れているから、そこに行ったらいいんじゃないか?」

「それなら、そうしよう!」

就職にも、就職活動にも興味が持てなかった森さんは、ドイツで標本作りを学ぶ専門学校に入るという新たな目標を得て、2007年に大学を卒業。留学資金を貯めるために、契約社員の仕事を見つけて働き始めた。

仕事を辞め、東大博物館に通う

1年後には貯金が200万円貯まったが、仕事に熱心になりすぎて当初の予定ほどドイツ語を身に付けられなかったこともあり、留学を断念。

日本でなにかできることはないかと、『標本学 自然史標本の収集と管理』 (国立科学博物館叢書)を読んでいたら、遠藤秀紀という研究者が書いた章が目に留まった。「標本とはなにか」「なぜ我々は標本を残さなければならないのか」といったテーマについて熱く記していたからだ。