「○○します」と言い切る

——日本語の表現の仕方が引き起こす「伝わらなさ」もあるような気がします。たとえば締め切りを伝えるとき「金曜日までに仕上げてください」でいいのに、依頼する側が遠慮して「金曜日までに仕上げていただけると有難いです」のように、ぼんやり濁して伝えてしまう。

【ウィルソン】「~てください」は日本語学習者にとってわかりやすい表現ですが、日本語母語話者は丁寧さを意識してしまうあまり、かえって日本語をわかりにくくしてしまうことがありますね。日本語母語の方を観察していて感じるのは、「自分の話が相手にどう聞こえているか」をものすごく気にしていることです。日本語そのものも、話し手のムードを表現する文末表現をたくさん持っています。たとえば、「リリースする」ということを伝えるときに、「リリースすることになっています」「リリースされることが決まりました」のように、文末表現で話し手のムードを調節する。

日本語には、自分が攻撃的だと受け取られないよう、無意識のうちに守りに入る調整をする表現が多いと感じます。だから「やさしい日本語」のトレーニングでは、「あすリリースします」と命題をはっきり伝えるようにというアドバイスをします。でも、なかなか難しいという人もいますね。

日本語は、価値観や考え方など言語以外の文脈を重視するハイコンテクストな言葉だと言いわれます。聞き手のほうが、話し手の意味を補足しながら聞く。たとえば「コーヒーを飲みますか?」と聞かれ、「明日、早いんですよね」と答えたりしますよね。そういうことがビジネスの現場でも発生して、文化の異なる人は「結局、イエスなの? ノーなの?」と混乱しやすい。

気持ちを理解して歩み寄るのが大切

——わかりやすく伝わりやすい日本語にするために、「やさしいコミュニケーション」トレーニングではどんなことを教えるのですか?

【ウィルソン】トレーニングは言語の形式を学ぶというより、「お互いの苦労や困難に寄りそう」ことを目的にしています。お互い知らないことが多いので、まずは言語学習者の気持ちを理解して、歩み寄れるところがあれば歩み寄る。形式にこだわったトレーニングは、あえてしていません。

ただし、簡潔に話すためのフィードバックとしては、たとえば、一文一義ぐらいにしてくださいと伝えています。日本語母語の人は「~したうえ、~で、~だけど……」と接続詞を使ってたくさん文をつないでしまいがち。そこを思い切って「です」「ます」とすると伝わりやすくなります。

記事冒頭のプラクティスの模範解答

1.緊張している(I feel nervous to talk)
2.簡単に短く説明しますね(I will give a quick explanation)
3.いいと思う人はいる(Some people think it’s good)
(構成=新田理恵)
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