「塩スープ」は味がひどいという慣用表現

でも、最悪の場合、そんな適当なスープすら作れない人たちもいました。具を煮て汁を出す料理は、良い材料をいろいろ入れると様々な味を出すこともできますが、具として使える食材が無いと、美味しいかどうかを離れ、味そのものを出すことすら難しくなります。本当に量を増やす以外に、スープにする意味が無くなります。

身分制度があった頃は言うまでもなく、朝鮮戦争が終わり、韓国で首都ソウル一極集中の経済発展が行われた一九六〇~七〇年代にも、そういう食事しか出来ない人たちは大勢いました。その場合、仕方なく、少ない具のスープ料理に塩を入れて、味を出します。具だけではいくら煮ても味が出せないからです。

その圧倒的な不味さは強烈で、いまの韓国でも、「塩スープ(ソグムクック、소금국)」と言い、味がひどいという慣用表現として残っています。一言で、貧乏くさい味付けのことです。そうしたイメージのせいか、それとも単なる好みの問題なのかは分かりませんが、韓国では味が薄くて塩を入れないといけない一部のタン(湯)料理以外に、白い塩が食べ物と一緒に出てくることはほとんどありません。

それでも私がまだ学生だった頃は、食べ物、例えば茹で卵などを白い塩に付けて食べることは普通にありましたが、いまではフライドチキンから茹で卵まで、ほぼ間違いなく、マッソグムといって、味付けをした塩が付いてきます。

テーブルの上に置かれた塩の容器
写真=iStock.com/arto_canon
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韓国では塩そのものも美味しくない

塩ラーメンを食べた日、同じ「塩」の字を付ける料理でも、日本と韓国とでは、意味がこんなにも違うものだな、と思いました。もっと根本的な話、日本の塩は普通に美味しいです。塩ダレを使ったラーメンだけでなく、塩そのものが、たまに指につけて口に入れてみると、凄く美味しいです。

これは、韓国ではあまり経験しなかったことです。日本にも味付け塩が無いわけではありませんが、そこまで流行っていません。その理由は、多分、韓国に比べて、必要性が感じられないからでしょう。似たような理由で、いまの韓国料理に、醤油を直接付けて食べるものはほとんどありません。

これもまた、昔は結構ありましたが、いつからか、味付けをしたジャン(「醤」の韓国語読み)というソースが一般的になりました。刺身をワサビ入り醤油につけて食べるときのあの感覚を知っている一人として、文化の差を感じずにはいられません。

日本に来てから、食べ物関連で「味を楽しむ」ことが増えました。しかも、さほど難しいやり方でもありません。最近の「自己ヒット」は、ステーキにわさびを少し載せて食べることです。

無茶苦茶高いレストランの料理を言っているわけではありません。値ごろ感あるステーキ店でも、ステーキにわさびを少し載せて食べてみると、なんとも言えない素晴らしい味が楽しめます。

茹で卵の半熟もそうで、韓国では目玉焼きでもないかぎり、卵は完熟が基本です。最初は半熟の茹で卵というのが食べづらい、皮を剝きづらいと思いましたが、最近は半熟も美味しく頂けるようになりました。塩を少し載せると最高です。ここだけの話、日本に来てから体重が結構増えました。