総裁選の構図「菅対岸田」から「河野対岸田」に変わった
今回の総裁選の構図は「若手vs.古参」だ。それは9月2日付の記事「『首相続投のための策謀に国民はうんざり』自民党内からも公然と“菅降ろし”が出てくるワケ」でも指摘した。
菅首相は7月から8月にかけ、首相続投を目指して総裁選への出馬の意向を繰り返しアピールしていた。自民党内で最大派閥の細田派に強い影響力を持つ前首相の安倍晋三氏と、第2派閥の麻生派を率いる副総理兼財務相の麻生太郎氏も菅首相の再選続投を支持していた。
菅首相は自民党内からの批判を抑え込んで総裁選を無風で乗り切るため、9月中旬に衆院を解散して総選挙に打って出ようとした。党役員人事と内閣改造も、総裁選前に決行しようとした。
ところが、安倍氏から直接電話で反対され、若手議員からも猛反発された。菅首相はこの人事権を駆使した奇策が失敗し、万策尽きて気力を一気に喪失。9月3日に「首相退任・退陣」を表明し、総裁選への不出馬を明らかにした。
これによって総裁選の潮目が大きく変わった。一番早く名乗りを上げ、若手の支持を固めようと動いていた岸田氏は菅首相という標的を失い、反対に出馬を思いとどまっていた河野氏が出馬を表明し、総裁選は「菅対岸田」から「河野対岸田」に変わった。
ただし、河野氏に若手議員の代表格の小泉氏が支持に回るなどした結果、前述した「若手vs.古参」の構図は変わっていない。いや、変わっていないというよりもむしろ変化の中身がより濃厚になったと、沙鴎一歩は考えている。
安倍氏は「河野氏を首相にしたくない」と考えている
ここで注目されているのが、安倍氏の言動である。
安倍氏は高市氏の支持を公言している。それは岸田氏を支持しないということではなく、河野氏を「首相にしたくない」と考えているからだ。
今回の総裁選は、382票の国会議員票と同数の党員・党友票の計764票で実施される。1回目の投票で過半数を取る候補がいなければ、上位2人による決選投票となる。決選投票は国会議員票(382票)と都道府県連票(47票)の計429票で争われる。
高市氏や野田氏が立候補したことで、1回目の投票でいずれの候補も過半数を獲得できず、決選投票になる可能性が高い。安倍氏自身も2012年9月の総裁選では、1回目の投票で石破氏に敗れたものの、決選投票に持ち込んで逆転勝利を収めている。
決選投票は国会議員票をひとつにまとめやすい。そのうえ、河野氏が強いとみられる党員・党友票は8分の1にまで減り、岸田氏が断然、有利となる。安倍氏は院政を引いて自らの権勢を維持し、憲法改正などに向けて次の政権を思うように動かしたいのだろう。