“若さ”を保ちながら、シニア層を開拓する

実は私もメルカリが話題になったばかりのころ、「これは職業上、体験してみなければなるまい」と思い、汗をかきながら出品に挑戦したことがあります。商品を梱包し、コンビニまで持っていき、レジでスマホの画面を見せる。これら一連の作業は本当に一苦労でした。

そこでメルカリが考えたのがドコモなどの携帯ショップや郵便局と提携して、「中高年向けのメルカリの使い方教室」を開くこと。「メルカリ教室、どこそこで開催!」という新聞チラシも盛んに撒いているし、テレビコマーシャルも打っている。最先端のアプリであるにもかかわらず、対面式の教室というアナログな手法を用いたり、広告媒体に新聞やテレビを選んだりしている段階で、シニアを狙っているのは明らかです。

ただし、もともとのユーザーである若い層にまで、メルカリが「シニア御用達アプリ」という印象が伝わるのは避けたい。そこで新聞チラシなど、若い人たちが目にする機会が少ない媒体でのアピールに特化しているのではないでしょうか。

年齢が上の人たちにとっても、「シニア向け」というイメージが強すぎるものは敬遠されます。若いイメージを保ちつつ、シニアを開拓していく工夫が欠かせません。

「aibo」はおもちゃからシニアのパートナーへ

ソニーのロボット犬「aibo」も、シニア向けへと舵を切っています。1999年に発売された初代AIBOは、「子どもが犬をほしがっているが、うちでは飼えない」という家庭を想定した、子ども向けのおもちゃというポジショニングでした。しかし、おもちゃにしては値段が高すぎた。

ソニーのロボット犬「aibo」
ソニーのロボット犬「aibo」(写真提供=ソニーグループ)

2018年に再登場したaiboは、旧モデルのロボットっぽさが薄れて、かなりかわいくなりました。片足を上げておしっこをするしぐさをしたり、耳の裏を後ろ肢で掻いたりするしぐさは本物の犬さながら。センサーで「飼い主」を認識し、名前を呼ぶ回数が最も多い人にいちばんなついて、撫でれば撫でるほど絆が深まっていくようプログラミングされています。

餌というか、バッテリーが切れそうになると自分からチャージの場所にいって充電するから、うっかり世話を忘れても動かなくならないし、もちろんペットロスもない。ペットロスがないのは、老親の子どもにすれば安心ですから、プレゼントにも最適。このようなパートナーを必要とするのは、子どもよりお年寄りだったのです。

「これは○○向け」という固定観念にとらわれずに、「これを本当に必要としているのは誰か」という視点でとらえなおすことで、まだまだいろいろなものがブレイクスルーする可能性を秘めているはず。

ただ、ユーザーを広げる場合は、元々のユーザーにそっぽを向かれないようにするのが大事です。例えば、かつて爆発的ヒットを記録したスマホゲームの「ポケモンGO」は、健康増進や仲間づくりの効用もあってシニアにまで広がったが、元々の若いゲームユーザーはあっという間に離れていった。ユニクロも、かつてシニア層が目立ちすぎて、若い層が離れていった時期があったが、若い層を呼び戻す新商品や施策で、年齢や性別を問わないユニバーサルなブランドになった。このように、ユーザーイメージをうまくコントロールしながら、新たなユーザー層を開拓することが、成長やブレイクスルーにつながるのです。

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