ボットの目的はメディアに情報を再生させること
——2016年の英国民投票や米大統領選では、ロシア政府が関与したとされるボット(自動のプログラム)が、投票行動に影響を与えたと、あなたの著書(『操作される現実』白揚社)で述べられています。そのボットは、技術的にはそれほど複雑ではないとありますが、なぜ多くの人がその単純な仕掛けに影響されてしまうのか。
理由はいくつかあります。まず多くの場合、ボットは人間をターゲットにしていません。情報をキュレートしているツイッターやフェイスブックのアルゴリズムをターゲットにして、それらソーシャル・メディアに情報を再生させることを目的としています。
たとえば、何万ものアカウントがある出来事について、ツイートするように仕掛ける。ニュースメディアはツイッターで何が人気なのかをつねにチェックしているので、「これはいま流行っているに違いない」と思って、記事にすることがよくあります。このように、生身の人間が影響を受けるまでにワンステップを経ることが多いのです。
別の状況では、この単純なボットが人の行動を変える効果があります。ジャーナリストや女性、あるいは特定のコミュニティの人を、有害な情報やひどく侮辱するような内容で攻撃し、怖がらせます。攻撃された人はボットの仕業だろうと思うかもしれませんが、それでもボットの後ろには必ず人間がいるものです。だから、この攻撃の裏にはもっと恐ろしく、邪悪で悪辣なことが隠されているのではないだろうかと思ってしまうのです。
SNSごとのフェイクニュースへの対応の違い
——現在、フェイスブックやツイッターは、いわゆる「フェイクニュース」といわれる情報について、どのような対応をとっているのですか。
ツイッターは、フェイスブックよりもはるかに執拗なアプローチをとっています。これは、思うにツイッターのオンライン空間での立ち位置が理由でしょう。両者はまったく異なるプラットフォームですから。ツイッターは、たとえば(インタビュー当時の実施日から数えて)この3日間でトランプのツイートの75%近くに偽情報、もしくは誤解を招く情報という警告ラベルを表示しました。これは大きなステップです。トランプが大統領に就任してからの4年間、ツイッターは彼の発言をほとんど野放しにしてきましたから。
ツイッターのような企業でも、アメリカ政府や政策の立案者と同じように具体的な危害が加えられそうな場合にのみ、対策を講じようと考えている。言論を過度に規制するのを恐れているからです。言論規制という仕事から逃れるために、企業らは「言論規制なんてことがあってはならない」というアメリカ市民の恐怖心を食い物にしている。それは、企業自身も自覚していると思います。
言論規制は、企業の収益にも影響します。ツイッターのユーザー数は世界で何億人規模、フェイスブックも同じくらいだといわれていますが、それほどのユーザー数、広告クリック数、ページビュー数、その他諸々の数字でできあがった「フェイク」な構造、この構造全体からソーシャルメディア企業は甘い汁を吸っているわけです。フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグは、再三にわたって言論の自由重視のアプローチをとり、言論の自由を奪うくらいなら、過ちを犯してもいいとさえ言っています。
とはいえ、2社とも偽情報と思われる投稿の拡散に対し、以前よりバリアを高くしつつあります。フェイスブックが静かに偽情報の拡散に歯止めをかけようとしているのに対し、ツイッターはもっと公然たる行動をとっています。以前はほぼ何もしていませんでしたから、それと比べるとはるかに有効です。
ただそれは非常に断片的で、私のような専門家でさえ、システマティックに何が起きているかを理解するのは難しい。対策に統一感がないのです。