少量ずつ毒を飲ませて荒唐無稽な陰謀論を信じ込ませる

——そもそも、そうした荒唐無稽な陰謀論がなぜ広まるのでしょうか。

「Qアノン」の裏に誰がいるのか知りませんが、彼らは幅広い分野に当てはまりそうなコンテンツと論説を考えて使います。個人的には、理にかなった戦略だと思います。

たとえば彼らは“Save the Children”(子どもを救え)というハッシュタグを使うのですが、ほとんどの人はそれを見たとき、イギリスの非営利団体「セーブ・ザ・チルドレン」を思い浮かべる。でも「Qアノン」のコンテンツを拡散する人は、往々にして児童誘拐など、誰もが問題にすべきと信じるような大問題を種にして、それをより一般化するように仕向けます。

毒に対する耐性を少しずつ増していくようなものです。1回に少量の毒を飲み、それを続けると、最終的にその毒はあなたにとって毒ではなくなる。耐性ができるからです。「Qアノン」のやり方も同じようなものです。少しずつ陰謀論を信じ込ませていく。

毒を混入している手元
写真=iStock.com/sudok1
※写真はイメージです

——とても計算された手法を用いているわけですね。

アメリカでは、制度や教育や医学、ジャーナリズムに対する深い不信感が、ここ数年でさらに高まっています。トランプが大統領になる前からそうした傾向は一つの要素としてありましたが、彼が大統領に就任すると、ジャーナリズムをひどく嫌い、学者たちは本当はバカであるとか「ディープ・ステート」の代弁者であると述べることが、公式に“承認”されたのです。

——「Qアノン」は表面上、真っ当なテーマにハッシュタグをつけ、拡散しているとのことですが、それをアメリカ政府が規制することは可能でしょうか。

それは非常に難しい。アメリカ政府、ひいてはアメリカという国が、「言論の自由」に心酔しているからです。それは正しくもあり、問題でもある。政府は、とりわけオンライン空間の規制には腰が重いように見えます。テレビ、ラジオなどには規制をかけていますが、インターネットの規制には渋ってきた。

自著でも述べましたが、私にはこう思えてなりません。つまり、アメリカ政府はオンライン空間をきちんと理解していないのです。その大きさ、複雑さにおじけづいている。アメリカ政府がオンライン空間を規制することができるとしたら、具体的な危害が生じる場合だと思います。

——たとえば、どんなときでしょうか。

「Qアノン」は反ワクチンや反医療といったディスインフォメーションを拡散していますが、それで実害を受ける人の数は計り知れません。こういう有害な情報拡散への対策を講じるべきでしょう。保護対象グループ(protected groups)への攻撃、たとえば黒人(アフリカ系アメリカ人)やユダヤ人、ムスリムを攻撃する人種差別的内容とか、暴力を駆り立てるような内容にも同じことがいえます。

——かなり特定的なケースの場合ですね。

そうです。でなければ規制できません。ナチスを経験したドイツでは言論規制に積極的ですが、アメリカは違いますから。