「2位じゃだめなんでしょうか」と揶揄されたが…

しかし、米国をはじめ、ロシアや中国などもうならせたこの和製スパコンは「国費を投じて開発した」という理由で、民間企業には開放されなかった。民間企業から「ぜひ使いたい」という要望が殺到したにもかかわらず、気象予測や地球温暖化の影響などに使途は限定された。当然、開発にかかった資金回収の道も閉ざされた。

09年には後継となる京の開発計画に対して、当時の事業仕分けで蓮舫参院議員が「2位じゃだめなんでしょうか」とただして論争が起きるまでにスパコンの開発機運は退潮してしまった。

日本の科学技術予算は00年度からほぼ横ばいの4兆円前後で推移している。一方、米国は年度によって浮き沈みがあるが平均15兆円程度、2010年代に入り米国を上回った中国では20兆円を超える。物量の差は圧倒的だ。しかし戦い方はある。「富岳」の成功はそのひとつだろう。

次のターゲットは「量子コンピューター」だ。この9月、東芝やトヨタ、NTT、日立製作所などが中心となって「Q-STAR」(量子技術による新産業創出協議会)を設立。新たな素材やデバイス、通信技術や製造業への応用など、幅広い分野での活用を探る動きが始まった。

ユニコーンがもっと生まれる素地はある

軍事技術開発の強化は日本では難しいだろうが、トヨタが三顧の礼で招いたAI新会社CEOのギル・ブラット氏は、元DARPA(米国防高等研究計画局)で、ロボットやAI研究の第一人者とされている。こうした人材を取り込むのも一つの手だ。

GAFAの成功は、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツといったカリスマの力だけでなく、DARPAからの派生やSBIRで生まれたスタートアップなどが要素技術となっている側面も大きい。アリババやテンセントなど中国のBATHに至っては、米国などから技術者の引き抜きで成長を遂げている。

日本の研究レベルは決して低くない。それは中国が科学技術分野でノーベル賞をまだ受賞していないことからも明らかだ。米国のSBIRのような「スター誕生」の舞台装置やリスクマネーへの投資を促す制度を設ければ、ユニコーンがもっと生まれる国になれる素地を日本は持っている。

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