緩和ケア医は全体のたった0.3%程度

早期から緩和ケアが受けられないことは決して珍しいことではありません。

実際に名前を挙げることは避けますが、非常に有名ながんの専門病院であっても、早期から緩和ケアを受けられるかどうかは担当医の裁量に委ねられています。

全国に医師は30万人以上いますが、緩和ケアを専門で行っている医師は大変少ないのです。

2021年4月1日現在で、日本緩和医療学会が認定している専門医は270人、認定医は731人、暫定指導医は125人です。合計して1126人です。

つまり、緩和ケア医は全体の0.3%程度しかいません。これだけでも少ないのが伝わると思いますが、この数字にはあるからくり(?)があります。

それは、緩和ケアの資格を持っていても、専従として緩和ケアに取り組んでいる人は必ずしも多くない、ということです。

特に地方部などは医師不足であり、緩和ケアだけをしていては病院の診療が回らないため、資格はあってもそれだけを行っているのではない、という場合は少なからずあります。

そのため、緩和ケア一本で仕事をしている医師の数というのは1000より少なくなります。

緩和ケア病棟は主として高度進行期や末期の患者さんを入院診療する場で、医師は非常に密なケアを要求されます。もちろん緩和ケア医の在籍が必要です。

緩和ケアを受けたくても受けられないことが多かった

高い熱意をもって早期からの緩和ケアを積極的に受け入れている病院もありますが、主として終末期のケアに全国で数百人の医師が従事していることになります。

また最近でこそ少し事情が変わってきましたが、大病院は自院に通院中の患者さんを診療することで手一杯(緩和ケアの従事者も少ないです)であり、他院通院中の患者さんへの緩和ケア外来が提供できない、という病院も少なからずありました。

そのため、自分が思う水準の緩和ケアを受けたいと思っても、断られてしまったり、自分が治療を受けている病院に部門がなかったりして、受けられないということは枚挙にいとまがなかったのです。

大津秀一『幸せに死ぬために 人生を豊かにする「早期緩和ケア」』(講談社現代新書)
大津秀一『幸せに死ぬために 人生を豊かにする「早期緩和ケア」』(講談社現代新書)

そこで、緩和ケアだけ、それも早期からの緩和ケアに完全対応したクリニックを私が先駆けて設立しました。

オンライン方式での相談も行うなどして、緩和ケアの地域偏在をカバーするための試みも行っています。

ただそれでも早期からの緩和ケアに対する周知の不足から、緩和ケアが十分に広く全国的に提供できているかというとまだまだ……というのが正直なところです。

今現在では、知っている人は早期から利用して恩恵を受けられ、そうではない人はいよいよ末期やかなり進行した病状になってようやく利用できることを知る、という格差が存在する状況です。

皆さんには、現状では知っている人だけがメリットを享受できる早期緩和ケアをうまく活用してほしいと思います。

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