「ドキュメンタリー映画でトラウマ」「当日に黙祷したけれど…」
当時まだ生まれていなかったミクア(18歳)は、授業をこう振り返る。
「学校の先生からそれぞれの過去の体験談を聞かされた。美術の先生はビルの最上階から事件のすべてを目撃して、人々がパニックになって何が起きているのか必死で知ろうとしている様子などを話してくれた。ある時は授業で見たドキュメンタリー映画で、人が窓から飛び降りて、止めてあった車にぶつかる音まで聞こえた。それだけでトラウマになってしまいそうで怖かった。実際にその場にいたらどれほど怖かっただろうと思った」
当時3歳のケンジュは「ミクアのように学校でいろいろ教わった記憶がない。9.11当日に黙祷したのは覚えているけれど」
当時5歳で中学からアメリカに来たヒカルは「その当日だけ、その事について習うが、そんなに詳細までは習わない」
当時2歳だったメアリーが覚えているのは、小学校で9.11ミュージアムに社会科見学に行ったこと。そして高校でイスラム教徒への差別の問題について教わったこと。「でもそんなに詳しいことは教わってない」
学校によって教える内容が違うアメリカの教育現場
一通りは教わるが詳しいことは教わらない。生徒によって教わった内容が全然違う。これはどういうことなのか?
アメリカには、日本のように国が定めた学習指導要領はなく、歴史教育や教科書の選定は地方自治体や教師の采配に任されている。それが自由でクリエイティブな教育につながっているのだが、どの先生に教わるかによってまったく内容が違ってもくる。テレビ局のCBSによると、全米50州のうち、9.11教育が義務付けられているのはわずか14州だという。
エピセンターであるニューヨークの学校は当然義務付けられているが、それでも教える内容にはばらつきがある。理由は、現代史はどうしてもカリキュラムの最後になって時間切れしてしまうことがあるし、9月11日が年によってはまだ夏休みの学校も多いからだという。しかし、政府が歴史教育をどの程度行うかを決めていない以上、もちろん理由はそれだけではないはずだというのは想像がつくだろう。
その結果、アメリカの9.11は風化の危機にある。その一例がこれだ。
アフガニスタン戦争と9.11がつながらない若者たち
「アフガニスタンでの戦争は9.11の報復として始まったの? 知らなかった」
ニューヨークのある女子高校生の言葉に驚いた。彼女は学校でも家庭でも教えられなかった、アメリカはアフガンの人々を守るために戦っていたと思っていたという。
当時アメリカがどうアフガニスタン戦争に進んだのかを知らなければ、現在起こっている緊迫した状況は理解できない。そのアフガニスタンはまさに現在進行中の危機にあるのに。