親子孫三世代同居

とても社交的な人だった母親の葬儀は、一個人としては盛大に執り行われた。両親と姉たち家族とは、年に1〜2回旅行をしていたが、和栗さんは母親への反発心から自分は参加せず、息子だけを参加させてきたため、子どもたち同士は仲が良い。

通夜のあとは母親の眠る祭壇の横にありったけの布団を敷き、父親、長女、長女の子ども2人、次女、次女の夫、次女の子ども2人、和栗さんと息子の10人で、明け方近くまで母親の思い出を語り合い、告別式を迎えた。

母親の葬儀から一段落ついた頃、和栗さんの高校3年生の息子が、「関東の大学に行きたい!」と言う。普段はあまり自己主張のない子が頭を下げてきただけに、和栗さんはなんとか行かせてやりたいと思った。

一方、一人暮らしになった74歳の父親は、四十九日法要で再会すると元気がなく、「一人でご飯を食べるのが寂しい」とこぼす。

双方の話を聞いた和栗さんは、「息子と一緒に関東へ引っ越して、父親と同居しよう! そうすれば同時に2人の希望がかなえられる!」と思い立つ。

早速和栗さんは、家族会議を開く。当時47歳の長女は、13年前に離婚して以降、息子2人と共に、実家から2キロほどの距離にあるマンションに引っ越してきていた。数年ぶりの関東暮らしに多少の不安を感じた和栗さんは、「長女と同じマンションに引っ越して、父親との同居を考えている」と話すと、姉たちも父親も賛成してくれた。

金銭面では、息子の父親であり、和栗さんの元夫が、「息子が希望する大学の入学金を援助する」と申し出てくれた。

2009年10月、和栗さんの息子は、第一志望の大学にみごと合格。ところが、元夫に合格の報告をしたところ、「やっぱりお金がないから大学は諦めてほしい」と。和栗さんにも経済的な余裕がほとんどなかったため、入学は断念。息子は大きなショックを受け、和栗さんと泣いた。

廊下の奥の明かりはついている
写真=iStock.com/DedMityay
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その後、和栗さんの父親が大学進学を強く勧めたため、まだ受験ができる大学を探したところ、合格した第一志望の大学に二部(夜間)があり、まだ受験できることがわかる。急いで願書を出し、受験すると、無事合格することができた。

「めげずに受験をしてくれた息子はすごいと思います。この日を境に息子は大好きだった父親を、『親とは思っていない』と言うようになりました」

2010年3月半ば、42歳の和栗さんと18歳の息子は高校卒業を待って、長女と同じマンションへ引っ越してきた。そしてまもなく父親も引っ越してきて、親子孫三世代の新しい生活が始まった。