同じ悩みを語り合う「跡取会」

幼いころからの夢だった、大好きな、尊敬する父の跡を継いで魚屋になることは叶えた。ただ、「家業を継ぐ」ことの大変さはある。

「家族だと、何でも言い合える分、他人以上に気を使うところがあります。親子と仕事のスイッチを切り替えるのは難しいと感じることも多いですね」

四六時中顔を突き合わせていれば、時には意見が食い違ったり、ぶつかったりすることもある。

「でも、正面から父が言うことを否定したりはしないようにしています。父が作ってきたものを私が受け継ぐわけですから、まずは父を理解しないといけないと思っています。ただ、それってすごくエネルギーを使いますね」

同じ悩みを共有できる場が、森さんが2年前に立ち上げた「跡取会」だ。名古屋など東海地方の中小企業の「跡取り」たち約120人がゆるやかにつながる。

森朝奈さんが会長を務める「跡取会」の様子
森朝奈さんが会長を務める「跡取会」の様子(写真=森朝奈さん提供)

「120人で、お互いの愚痴をずっと聞いてるって感じです(笑)。先代との付き合い方、ほかの社員との関係など、みんな悩みは同じなんです。でも、社内で愚痴を言うわけにもいかないし、なかなか周りには悩みを理解してくれる人がいないので、孤独なんですよね。話だけでも聞き合えたら力になるのではと考えて作りました」

メンバーは、米穀店、お茶販売店、運送会社、解体業者など、あらゆる業界から集まる。コロナ禍が始まってからは、直接顔を合わせることが難しくなったが、オンラインで交流会を行い、助成金や給付金の勉強会を行ったりもした。「『気軽に参加できる2代目の愚痴会』という感じですね」と森さんは話す。

「ひとり親世帯応援おさかなBOX」プロジェクトに寄せられた、支援を受けた人たちからの感謝の声
「ひとり親世帯応援おさかなBOX」プロジェクトに寄せられた、支援を受けた人たちからの感謝の声(写真=森朝奈さん提供)

コロナ禍で、飲食業界は厳しい状況が続く。森さんは「正直、不安はあります」というが、立ち止まらずさまざまな取り組みを行っている。

人気商品となった「おまかせ鮮魚BOX」のほかにも、自分で魚をさばいてみたい人のために、下処理をしない鮮魚を詰め合わせた「おさかなさばきチャレンジBOX」や、離乳食に適した魚を、下処理して小分けし、加熱・冷凍処理した「鮮魚BOX for ベビー」なども次々発売。今年1月と2月には、コロナ禍で厳しい状況にあるひとり親家庭を対象に、無料で「おまかせ鮮魚BOX」を届ける支援プロジェクトも行った。

6月には、経理システムのクラウド化を実施。この夏には、新業態の店舗の県外での開店も控える。「今、仕事がすごく楽しい」という森さん。「凄腕の女性経営者」として、これからも力強く前へ前へと突き進んでいくに違いない。

(文=元川 悦子)
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