「せっかくだから、かけてちょうだい」
名古屋市の河村たかし市長が8月4日、表敬訪問に来たソフトボールの後藤希友選手の金メダルをかんだ。知った瞬間、気持ち悪さがこみあげてきた。コロナ禍だから、ではない。他人の、それもはっきり書いてしまうが、油ぎったおっさんが、自分のものをかむ。そう想像して、ゾワゾワしたのだ。
20歳だという後藤さんが気の毒でならなかった。そして、どうして後藤さんは市長に金メダルをかけたのだろうと思った。どの記事も、「後藤選手がかけたメダルを市長がかんだ」と報じていたからだ。自発的なはずがない。同席した市役所の職員が促したのではないかと疑った。その人も今頃、罪の意識に苛まれているのではないか。そこまで想像していた。
だが、違った。河村市長が、自分からかけさせたのだ。当日の映像をあれこれ検索し、見つけた東海テレビの映像でわかった。「せっかくだから、かけてちょうだい」と市長が後藤さんに言っていた。だから後藤選手はメダルをかけた。そして市長はかみ、そのまま返していた。唖然としつつ思ったのは、「セクハラは、突然やってくる」ということだった。
最初のコメントは「愛情表現だった。金メダルは憧れだった」
たぶん河村市長は「よーし、これから、セクハラするぞー」と思っていたわけではないだろう。4日夜にコメントを発表したが、「最大の愛情表現だった。金メダルは憧れだった。迷惑をかけているのであれば、ごめんなさい」という内容だった。ちなみに、これが全文だ。
この能天気さがすごすぎて、そういう人が日本で3番目に人口の多い市のトップをしている事実にうちのめされる。これだから日本のジェンダーギャップ指数は120位だし、来年もせいぜい119位にしかならないだろうと悲しくなる。で、この認識は私だけのものではないから市役所には抗議が殺到、アスリートたちからも批判が起こった。
そのあたりは後述するので、東海テレビの映像に戻る。メダルをかじる前後に何が起きていたか、細かく描写していく。まずは、かむまで。
「せっかくだから、かけてちょうだい」と要求された後藤さんは、「あ、そうですね」と反応、市長に近づき、首にかけた。すると市長は、「あ、重てーにゃー、本当にこれ」とメダルを見ながら言い、取材陣の方を見て「重てゃーですよ」と言い、次に「なー」と言ってマスクを外し、「こうやって」とメダルを口に近づけ、そしてかんだ。報道陣に体を向けたままの、まさに一瞬の動作だった。