「かまれるのが嫌だったら、首にかけなければいい」は無理
次が、かんでから。見ていた後藤さんは、「アハハ」と反応した。すると市長は後藤さんを見て、小声で「なあ」と言った。後藤さんは、「はい」と答えた。市長は「オッケー、オッケー」と短く反応した。これだけでは伝わらないかもしれないが、ここはすごく問題のパートだ。気持ち悪いパートと言ってもいい。
そのあと、市長は取材陣の方に向き直り、「あー、ほんとに重てゃーです」と言い、メダルを外し後藤さんに返した。マスクを外したまま、「おめでとうございます」と言い、後藤さんは「ありがとうございます」と返した。市長と報道陣にお辞儀を繰り返す後藤さんが映って、映像は終わる。
セクハラ事件が明るみになると、「(被害女性は)拒絶しようと思えば、できたはずだ」という人が必ず出てくる。そういう人には、ぜひこの映像を見ていただきたい。今回なら「かまれるのが嫌だったら、首にかけなければいい」ということになるだろうが、それがいかに無理かがよくわかる。だって「表敬訪問」だし、メディアも並んでいる。「嫌です」と言うのはかなり難しい。
かんだ直後に「なあ」と言って、同意を求めている
今回に限らない。要求されたことに一抹の不安というか違和感があったとしても、「一抹」の段階でノーと言いにくいのだ。予防的に声をあげるに越したことはないが、まさかと思う気持ちもある。今回なら、まさか市長が金メダルにかみ付くと誰が想像するだろう。
そして、先ほども書いたが、問題はかんだあとだ。後藤さんの「あはは」という反応が歓迎の笑い声でないことは、きっと河村市長も感じたのだろう。だから「なあ」と言ったのだと、映像から伝わってくる。書いていても不愉快になるが、「なあ」のあとに省略されている言葉は、「別にいいだろう」だと思う。百歩譲ってというか、気持ち悪い度を下げて解釈してあげるとしたら、「面白かったよね」になるかもしれない。
ちょっとおちゃらけただけ、冗談だよね、わかるよね、と同意を求めているのだ。その強引さに言われた方は、「はい」と言わざるを得なくなる。それを聞いて、市長は「オッケー、オッケー」と答えるのだ。はい、同意できたよね、お互いに問題ないことが確認できたよね、「オッケー、オッケー」。セクハラ後の処理として、セクハラした側がとる行動。それが映っていると思い、すごく気味が悪かった。
そんな生理的感覚から、ここまで「セクハラ」と書いてきたが、十分にパワハラでもある。自分を表敬してきた相手に、その人の所有物を貸せという。自分の方が立場が上で、断れない相手だと知っていて無理を言う。それだけでなく、借りた所有物に傷をつけるような行為に及ぶ。十分以上にパワハラだ。