広告の原点とも言うべき「広告トラック」

またここは、ビルの壁面に設置された巨大ディスプレーによる動画広告でも有名な場所です。昼夜を問わず、ビルの壁のあちこちでは、さまざまな映像が光り輝き、音楽やメッセージ音が流れだす。それはさながら1982年の映画『ブレードランナー』(リドリー・スコット監督)で描かれた近未来をイメージさせる街角風景です。海外からやってきた人は、テーマパークを訪れたかのような感覚に陥るかもしれません。

さらにそこで非日常的な空気を演出するのが広告トラック。実はここは東京でもっとも広告トラックの出没率が高い場所の1つなのです。

渋谷駅前交差点に侵入する広告トラック
写真=iStock.com/aluxum
※写真はイメージです

広告トラックとは通称、アドトラ(アドバーティスメント・トラック)と呼ばれていて、改造した荷台部分に広告を掲示し繁華街を走行する広告宣伝車のことです。電飾にいろどられた視覚的な華やかさとともに、内蔵されたスピーカーで流される音楽によって、アドトラはこの交差点を華やかな祭り空間に仕立てる重要なアイテムとなっています。

以前、アドトラ・ドライバーに話をきいたことがあります。街で目立つ存在でありながら、中身はいったいどんな仕事なのか、たいへん気になって調べてみましたが、ネットではほとんど何も分からず、運行会社に問い合わせても答えはなく、そこで実際に街を走っている車のドライバーに話をきくことにしました。

赤信号で停車中のトラックに声をかけて、ようやく後日、取材にこぎつけました。中身は驚くような話の連続で、とても興味深いものでした。ちょいと見には、アドトラは適当に街を走っているように見えますが、実に計画的な展示(この業界ではそう呼びます)走行が行われているのです。

たとえばその日の展示が、あるロックバンドのCDだとします。当日開催される武道館でのコンサートの観客層が、そのCDの購買層と共通する場合は、開演前、終演後の時間を狙って会場のある九段の街を周回する。また、ネット関連の会社や商品の広告だと秋葉原を中心にまわる、あるいは風俗の募集広告だと新宿歌舞伎町近辺というように、ルートも細かく設定されている。

ネットや仲間からのメールなどでつかんだ渋滞情報はアドトラにはとても重要で、ふつうの車と違って渋滞こそ本領発揮の機会。人通りの多い場所での滞留時間が長いというのは、それだけ広告展示に有利ということなのです。

またクラクションはよほどの危険がないかぎり鳴らさない。たとえ赤信号で歩行者が横断していたとしても。広告のイメージダウンになるからだといいます。アドトラは一定のルールに基づいて、あらかじめプログラムされたルートを忠実に再現しているわけです。

あるドライバーはアイドルグループ「嵐」の展示走行をしていたとき、赤信号で停車中にファンらしき女性から、弁当を差し入れられるというようなハプニングもあったそうです。

現在、広告宣伝はネットが中心になっています。テレビの放送、新聞、雑誌がそれに続きますが、アドトラはさしずめ「走る看板」といえます。いわば広告の原点。最も古いタイプの宣伝方法ですが、そのアドトラが展示するものにスマホのアプリの宣伝が多いというのは興味深い事実です。