最年少メダリストの“唯一無二”の背泳ぎ
山田美幸が電動車椅子に乗って東京アクアティクスのプールに登場するや、場内から大きな拍手が巻き起こる。生まれつき両腕を失っている山田は、左右長さの違う足を上げて声援に応える。
今年3月の日本選手権で50mと100mに日本新記録を樹立して優勝。この東京パラリンピックでもメダル候補の最右翼であるから、拍手や声援が送られるのは当然と言えば当然。山田はそんな期待への重圧などまるでないような天真爛漫な笑顔をみせて一礼する。
自分でよちよちと歩いて水に入る。140cm、33kgの小さな体の14歳、その笑顔と可憐な姿は天使にしか見えない。さあ、これから、水の中で思い切り羽ばたくのだ!
100m女子背泳ぎ決勝。カテゴリーは運動機能障害が2番目に重いS2。山田は第3コースだ。水の中でスタートを待つ。ブザーが鳴るやプールの壁を思い切りキック。すぐにトップに躍り出る。予選はスタートで出遅れたが、本番は足がスムーズに動き、水を蹴っていく。
本人曰く「100点満点」。しかし35m過ぎで両腕が使えるシンガポールのイップ・ピンシウに抜かれる。とはいえ、50mのターンも「100点満点」で2位の座をキープ。隣の第4コースのピンシウに粘り強くついていく。
泳ぎだして2分が経過する。イップがゴールに辿り着く。山田は2位のまま懸命に脚を動かす。左右の長さが違うので、長い左足は横に蹴り、短い右足は縦に蹴る。山田が編み出した自分だけの泳法だ。両腕がなくても両肩を揺らして推進力につなげる。