親世代の成功体験が才能を阻む

逆に「いい成績をとって、いい大学へ行き、いい会社へ就職する」といった親世代の成功ルートの呪縛が強いと、本人がやりたいことに出合うまでに時間がかかり、遠回りになってしまうこともあります。

バーチャルイベントマンの動く城のフィオさんは、ギネス認定もされた世界最大のVRイベント『バーチャルマーケット』の発起人です。VR空間で出会った仲間を楽しませたいと、最初は一人でイベントを企画し、今では100万人以上が訪れるイベントとなりました。現在、VR空間でキャラクターに着せる服や住む家を売買できる「バーチャル経済圏」をつくり、その中だけで収入を得て暮らしていけるもうひとつの世界づくりに取り組んでいます。

そんなフィオさんは、子どもの時から有名大学、有名企業への道を親から強く言われていました。本当はゲームデザイナーになりたいという夢があったのですが、自分の思いより親を優先し、親が望んだレールをひた走り、約束通りに有名企業に入ることとなります。しかし、30歳のときに内因性うつ病(遺伝や体質による、脳の機能障害が原因の一部と言われる外的要因のないうつ病)を発症。電車に乗るだけで、パニックで気絶をしてしまうような状況で、二人の息子と妻がいながら、外に出られないという状況に長く苦しむことになります。

そこから抜け出せたきっかけは、ひきこもり生活のなかでVRに出合ったことでした。ゲームクリエイターに憧れていたことも思い出し、VR空間で遊ぶ方法を考えるようになり、現在日本が世界に誇れる、新時代の文化を作り出すに至りました。

フィオさん
動く城のフィオさん

ご自身の経験を振り返り、フィオさんは子どもに次のようにアドバイスしています。

「大人はあなたを導いてくれる存在ですが、完璧というわけではありません。時にまちがったことも言うし、言葉をそのまま受け取るべきではない時もあります。だから、言われたことを、もう一度『どういう意味で言ったんだろう』『両親はこう言っているけど私はどうしたいのかな』と、自分の考えで見つめ直してみてください。あなたの人生を決めるのは、他の誰かではなく、あなた自身なのですから」

親として子どもにいろいろ言いたくなるのは当たり前のことです。しかし、正解がない時代だからこそ、大人も間違う。そんな風にある意味開き直ってしまって、最後の判断を子どもに委ねていくようにすれば、親も子も気持ちがラクになるのではないでしょうか。

子ども時代の挫折体験が社会ニーズ発見につながる

フィオさんは、VR空間にバーチャル経済圏をつくろうとされているわけですが、これは病気でひきこもりの生活を送るようになったからです。このようなニーズや発想は、普通に暮らしていたら、なかなか気づけないものです。

いまの時代は、「正解を出す人」よりも「問題を見つけられる人」が求められているといわれています。こう考えると、欠点や変だと言われてしまう問題を抱えた経験のある人こそ、問題を見つけやすいぶん、活躍しやすい時代が来ているのではないでしょうか。

連続起業家として、当時日本最年少で上場を実現した家入一真さんもまた、学生時代ひきこもりを経験した一人です。学校や職場に馴染めない中で、すでにある集団に入っていくのが苦手なら、自分自身で居場所を作り出せば良いことに気づき、起業の考えに至り、才能を発揮することになりました。

家入さん
家入さん

「世の中から孤独をなくしたい」と活動する、ロボット開発者の吉藤オリィさんもフィオさん同様につらく悩んだ時期があった人です。

吉藤さんは、小学生時代の入院をきっかけに、周りと馴染めず不登校となってしまいます。学校にいけないつらさ、そして何より誰かに助けてもらうばかりで、自分は何も返せないという苦しさを味わいました。

その中で、両親の応募したロボットコンテストからロボット作りにのめりこみ、コンテストで出会ったロボット開発者に師事したいと、高校から学校に復帰。車椅子などの開発で大きく成功しますが、自分が本当に一番作りたいものは何なのか考えた時、不登校時代の辛い体験がよぎります。

不登校だった自分に必要だった、コミュニケーションの本質は何かを振り返り、遠く離れたところからでも仕事をしたりイベントに参加したりできる、分身ロボット「OriHime」の開発に至ります。孤独だったコンプレックスを強みに転換し、今では寝たきりでもロボットを通して働ける、分身ロボットカフェDAWNで、動けない人でも自宅から働いたり、人の役に立ったりできる機会を作り出しています。

吉藤さん
吉藤さん(写真提供=(株)オリィ研究所)

吉藤オリイさんは子どもたちにこうメッセージを送ります。

「学校に行けなくて孤独に過ごしていた時、世の中が正しくて、自分の方が間違っていると思っていました。世の中は完璧だから、そこに合わない自分の方が悪い、と。でも、大人になって気づいたのは、世の中はまだ不完全で、未完成だということ。たとえば車椅子は道を動きにくいし、社会の仕組みも整っていない。だから絶対の正解なんてないし、当り前と言われることが変わることもあります」