いろいろな立場の人への共感性を見ている

では、なぜこのような難しい問題を出すのだろうか?

開成中学の国語入試は、毎年変化に富んでいる。ある年はキャリアウーマンの母の心の葛藤といった他者理解を求めるものだったり、ある年はビジネスシーンのやりとりを通して、図やグラフを参考にしながら論理的に読み解くものであったりと、いろいろな形の問題を出す。複雑な家庭環境の話や、小学生の子供には経験したことがないビジネスのやりとりなど、さまざまな内容の問題を出すことで、いろいろな立場の人への共感性を見ているのだ。毎年、入試傾向が違うので、塾側は対策に苦労している。答えを導くためのテクニックが教えられないからだ。だが、それが学校側の狙いでもあるのだ。

開成中学は誰もが知る全国屈指の難関中学だ。首都圏の中学の最高峰であり、塾のトップクラスにいる優秀な子が目指す。小さい頃から算数教室やプログラミング教室などの学習系の習い事をし、低学年のときから塾に通っているケースが多い。大きな目標に向かって努力をするのは尊いことだが、なかには塾や親に言われるがまま勉強だけをしてきた子がいる。

知育パズルで遊ぶ子供たち
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「勉強だけができる子」は求めていない

そういう子は幼いときから、親から「勉強さえしていればいい」と言われ、家のお手伝いをしてこなかったり、友達と十分に遊べずに過ごしていたりと、勉強以外の経験が極端に乏しい。そして受験で合格できても、中学に入ってから、自分で考えて行動することができなかったり、友達との関係をうまく築けなかったりと、つまずくことが多い。

そういう生徒をたくさん見てきた学校は、勉強ができるだけではなく、人として魅力のある子に来てほしいと切に願っている。それを見極めるために、国語の入試ではさまざまな立場の人の物語を読ませているのだ。戦争、貧困、差別、ジェンダーなど、世の中にはさまざまな問題がある。自分が経験していないこと、接点のない人のことなどをどれだけ理解し、想像力を働かせることができるか。つまり、世の中や社会にどれだけ関心を持っているかを見ているのだ。それはすなわち、「あなたの家庭では、日ごろから世の中について考えたり、話し合ったりしていますか?」と家庭力を問うているともいえるだろう。