参考書と問題集を必要以上に買い集める
毎年夏前になると、家庭教師の問い合わせが急増する。特に多いのが6年生の親からだ。入試本番まであと半年、なかなか成績が伸びないという焦りから、わらにもすがる思いで家庭教師を求める。そういう家庭を訪れたときに、私が真っ先に見るのがリビングの本棚だ。参考書や問題集がずらりと並んでいると、「あ、ここもアタフタのループにハマってしまっているな」と悟る。
中学受験のプロ家庭教師として、長年多くの家庭を見てきて感じるのは、成績が伸び悩んでいる子の家庭には共通点があることだ。親がアタフタ状態になっている。本棚には書店の中学受験コーナー並みに参考書や問題集がそろい、しかも付箋がびっしりと貼られている。小学生の子供にこれだけの量をやらせるのはまず不可能だろう。たくさんの問題集を買い集め、付箋を貼っただけで満足し、やらせた気分になっているのだ。仮に全部やらせていたら、これはもう教育虐待の域に入る。
「たくさん勉強すれば伸びる」は中学受験には通用しない
問題集をそろえたがる親の心理としては、何よりも「不安」がある。そういう親は、わが子の成績が伸びない理由を外に向ける。うちの子の成績が上がらないのは、塾の教え方が悪いからだ、問題集がイマイチだからだ、と文句を言っては、転塾をくり返したり、問題集をコロコロ変えたりする。また、ママ友情報にも流されやすい。誰かが「この問題集がよかったわよ」と言えば、わが子の学力レベルなど無視して、すぐに飛びつく。そうやって、“つまみ食い”と“目移り”をくり返す。迷惑をこうむるのは、子供だ。あれをやれ、これをやれ、と指示され続け、“やらされる勉強”にモチベーションは下がる一方だ。
問題集をたくさんやらせたがる親は、中学受験では一定数存在する。そういう親は、自身の受験でたくさんの問題集を解いて合格したという経験をしていることが多い。だがそれは、中学受験ではなく、大学受験の話であったりする。それができたのは、高校生ですでに大人に近づいていたから自制心もあり、多少無理をしてでも頑張れたからだ。
また、高校生の頭脳には、すでに多くの知識が収納されており、新しく吸収した知識が、過去に収納された知識に自然につながったとき、納得の快感が生まれ、充実感の元になる。ところが、知識量が少ない小学生にはこの精神活動が自然に発生しない。大学受験では通用する「たくさん勉強すれば伸びる」は、中学受験では通用しないのだ。