※本稿は、浅川智仁『仕事ができる人は、3分話せばわかる 信頼を勝ち取る「準備・具体性・ストーリー」』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
「1秒後にはコピーに取りかかります」
企業の新人研修などで、参加者に対して、よくこんな質問をします。
「上司から、『この書類のコピーをすぐに頼む』って言われたとします。そう聞いたとき、パッと感覚的に、どれくらいの時間でコピーをして持って行けばいいと思いますか?」
回答は、本当に、人によってまちまちです。
同じ会社の社員でも、「1秒後にはコピーに取りかかります」って答える人もいるし、「自分の仕事のキリがいいところでコピーして、1時間以内には持って行きます」と答える人もいる。
ある企業での研修では、「1時間以内です」って回答する社員のうしろで、その社員の上司が、「あっ、だからコイツ、いつも仕事が遅いんだ……」という顔をしていたこともありました。
1時間とはいわなくても、「すぐにコピー」と頼まれたときに、「1分以内」と思う人と、「5分以内」と思う人の間では、すでに5倍の開きがあります。
この認識のズレが、上司と部下の間にあったとき、悲劇が始まります。
「あれ? ○○さん。『すぐに』って言ったんだけど」
「はい。(5分以内に)すぐにやります」
「(どうしてコピーに行かないのかな?)うん、だから、『すぐに』ね!」
「いや、だから(5分以内に)すぐにやって持って行きます!」
まるでコントですね。
でもこれ、オフィスでは案外よく見かける光景です。
なぜ、こんなことが起きるのでしょうか。
それは、「自分が頭に描いたイメージと、相手が自分の言葉を聞いて頭に浮かべるイメージは、同じものではない」という前提に、両者が立っていないからです。
頼まれてもトラブルにならない声かけ
悲劇的なのは、「すぐに」の意味するところが曖昧なために、両者がどっちも正しいということ。
「正しさ」と「正しさ」の争いになってしまっているのです。
この悲劇を防ぐには、どうしたらよいのでしょう?
簡単なことです。
「○○さん、この書類のコピー、14時までにもらえる?」
こう頼めばいい。
これなら、老若男女、どんな人同士でも共通の認識ができます。
このように指示できる上司は、できる人です。
一方、たとえ上司が、「すぐにコピーして」って指示してきたとしても、「5分以内で大丈夫ですか?」って確認できる部下も、できる人です。
できる人は、ひとつの言葉でも、お互いの頭に浮かぶイメージは「違っていて当たり前」だと知っているので、相手により正確に伝える工夫や努力を惜しみません。
できる人同士のコミュニケーションでは、お互い、正しい認識を共有できるように注意しているので、ムダなストレスにならないし、認識違いによるトラブルも未然に防げるのです。