時速80キロ、わずか10メートル間隔での自動隊列走行に成功

こうした大容量通信は、5Gの得意とするところだ。遠隔監視センターが遠隔監視を行う場合、先頭車と後続車の双方から、センターへ映像が送信される。センターでは映像を見ながら、隊列走行に異常がないかどうか監視する。先頭車の運転手に何らかの異変が生じた場合、センターからトラックに緊急停止信号を送信することも、将来的には可能だ。2020年2月には、新東名高速道路のトンネルを含む試験区間約20キロで、3台のトラックが時速約80キロで走行しながら、わずか10メートルの車間距離で隊列を維持することに成功した。この実験では、後続車の自動操舵制御が新たなテスト項目として加わった。それまで後続車のハンドル操作は、後続車の運転手がしていただけに、無人隊列走行の実現に向けて、大きく一歩を踏み出した。

もちろん、今後の課題も多い。高速道路では隊列走行ができたとしても、最終目的地が違えば、人手不足の解消対策にはならないという意見もある。隊列走行を組むにしても、高速道路に乗る前に隊列を組む場所がないという現実的な課題もある。逆にいえば、こうした課題をクリアできれば、トラックの隊列走行は実用化される可能性が高い。まずは空港や港湾など、一般車両の入らない専用道で実現するかもしれない。

5Gが実現する無人トラック隊列走行のこれから

トラックのみならず、バスの隊列走行の研究も一部で始まっている。JR西日本とソフトバンクは、自動運転と隊列走行技術を用いたBRT(Bus Rapid Transit=バス高速輸送システム)の開発プロジェクトを開始すると2020年3月に発表した。このプロジェクトには、先進モビリティも参加し、異なる自動運転車両がBRT専用道内で合流して隊列走行を行う「自動運転・隊列走行BRT」の実現を共同で推進するとしている。

中村尚樹『最前線で働く人に聞く日本一わかりやすい5G』(プレジデント社)
中村尚樹『最前線で働く人に聞く日本一わかりやすい5G』(プレジデント社)

内閣府では物流事業の労働生産性を20%以上向上させるとして、「スマート物流」サービスの実現に向けた検討を重ねている。そのためにトラックの積載効率の向上、モノの動きの見える化、輸送手段の共有化や物流センターの自動化など、様々な取り組みが検討されている。そのスマート物流を支える重要な構成要素のひとつがトラック輸送である。

同時に、新型コロナウイルスにより外出が制限されたり、自粛が要請されたりした中で、トラックによる物流のニーズが格段に増加した。運輸業界の仕事は社会にとって必要不可欠な、いわゆるエッセンシャルワークであり、トラック運転手の負担軽減、人材不足の対応策として、自動運転と5G技術を使った隊列走行への期待が高まっている。

【関連記事】
【第1回】成田空港が「自律走行する警備ロボット」を月額30万円で導入した本当の理由
「いまEVを買ってはいけない」ドイツのランキングが示す"不都合な真実"
「大逆転はここから始まる」トヨタがEVより"水素車"にこだわる本当の理由
「新技術がわからない」軽の守護神・鈴木修氏の引退で、自動車産業の崩壊が始まる
名車「クラウン」があっという間に売れなくなった本当の理由